第13話 原点にして頂点 【配信回】

 中佐が魔法で治療を終えると、高橋はなんとか自力で歩ける程度に回復した。小林は安堵からメイジーに抱きついて来て、壁に倒れ込むように二人で寄り添っていた。


「一度軍を待ちますか?」

「いえ、魔力干渉が始まったのなら、一刻も早く原因を討伐したい所です。聖域に赴かねばなりませんし、このまま向かいましょう」


「え、だ、ダメ! あそこには……!」

「推定されるランクと数は?」

「……Sランク、しかも、2体です」


【マジかよ】

【よく1人でも生きてたなおい】

【ねえ、真面目にダンジョンやめれば(震え声)】

【増えるから最悪なんだよな、あいつら】


 雪馬は言葉が聞こえた瞬間。空気が凍りついたかと錯覚した。Sランク。大規模ダンジョンでも滅多に存在しない。Aランクまでの妖魔とは枠組みの違う異形種。

 1体で災害級とまで謳われる。それが、2体。

 ニュースのトップ報道や、新聞の一面を飾る事さえ珍しくない。怪物の中の、怪物。


「手傷は?」

「一体の翼は、間違いなく折りました」


【ヒュー! 大金星じゃねえか!】

【こりゃー将来有望だぁ……!】


「札は?」

「2枚です。片方を」

「はい。上出来です。飛ぶのが一体なら、十分やりようは残されています」


 中佐は大型ナイフを受け取り、腰に鞘ごと差し込んだ。雪馬の目には多少握りの形が大きい、ただのナイフに見えた。


「でも、私たちだけじゃ……!」

「素朴な疑問なのですが、よろしいでしょうか」


 中佐が腰に差し込んだナイフの柄を、指先で確認し彼らの顔をどこか不思議そうに見回した。


「中佐、ここは俺が」

「んっ……任せます」


「なあ、お前らにとって、生涯最高の冒険って、なんだった?」


「え、……生涯最高の、冒険?」

「俺は昔、悪の組織ってやつを、潰した」


 ニヤリと悪戯を告白するように、和崇はその場の1人1人の顔を見回して、自慢気に語り始めた。


「まっさらな街から旅をして、墓場みてえな塔のある街で、親殺された子供の敵を取ったし、企業に偽装してた悪の組織潰して、伝説と発電所と氷山で戦って、石英の道を走破した」


【隙あれば自分語り乙】

【いや、この話、自分って言うか……】


「何より、最高の舞台でライバルと戦って、勝利してチャンピオンになった。たった一匹の相棒とな」


【やっぱりポケットなモンスターのことじゃねえかwww】

【おい、今そんな事話てる場合じゃねえだろ!】

【ふざけんなお前もうダンジョン辞めろ】


「あのゲームがまだ、アニメ化前。戦争の前で、俺が村で最も早くクリアした。俺自身の原点の話だ」


【待て、それって……】

【リアルレッドさんじゃねえか!?】

【嘘だろ、本当ならリアルレッド様じゃねえかwww】

【一匹って地味に凄いな!?】

【なになになんの話教えてエロい人!】

【ググって、どうぞ】


「今ゲームの話なんて! してる場合、じゃ……」


 一見不真面目に関係無いことをまくし立てる和崇に、雪馬は喰って掛かろうとした。

 だが、彼の目が真剣そのものであることに気づいて、その異様な迫力に雪馬は、とっさに言葉を返せなかった。


「お前らの原点ってなんだ。最も胸が高鳴ったあの頃ってなんだ。……今まで生きてきて、生涯最高の冒険って、一体どれだった。俺に、聞かせてくれ」

「原点…………」


 メイジーたちは、ハッとなって気づいた。

 そうだ、ここでの冒険は私たちに取とって、原点にして頂点だった。

 なら、今ここで挑んで、取り返さなきゃ、嘘だ。

 今だって、原点に挑んでいる途中なんだから。そう思い至って、全員顔つきが変わり始めた。

 和崇はニヤリと不敵に笑った。まるで、困難など何も無いかのように。


「行こうぜ、未来の冒険者チャンピオンたち。いつだって、そうしてきただろ?」

「…………行こう」

「メイ……」

「魔術干渉が起きたんじゃ、あいつらもっと増えるもの。上には絶対に行かせられないじゃん」

「…………だな」


「どうして……?」

「ツラみりゃわかるってもんですよ、悔しそうにずっとどっか笑ってんですもん」

「冒険者が譲れない宝を前にして、見逃すわけが無いんですよ。ユキメさん」


【むしろ俺が行きたい】

【羨ましい……】

【レッド様〜!】

【ユキメちゃん、レッド様を下さい】

【結婚のご挨拶かい! しかも逆ぅ!】

【俺らも何か知恵出すぞ!】

【素人意見だから、参考程度に!】

【魔力干渉の推測出たぞ、観測規模からして次は一時間弱以内だ】

【増えちまうか。避難勧告準備だな】

【有能】

【お前船に乗れ】


【マジでやるのか……たった6人で】

【ボスの推測は?】

【あてにならねえ推測が20以上あるぞ】

【装甲騎兵かよ】

【伝説の始まり】


 雪馬は明け放たれた扉の向こうを目にした。どこまでも続く迷宮の暗闇は果てしなく、自分のしている指輪のように死に満ちているように感じる。

 和崇はそう感じた彼女の肩に、手を置いた。


「いざとなったら、また担ぐよ」

「無茶言いますね……行っちゃい、ましょうか」

「悪いな、また焼肉奢るよ」


 背中を押された。この二人と、この人なら。雪馬はそう感じた瞬間。行くと言葉に出来ていた。

 声は裏返ってる。手だってガクガク震えてる。足取りなんて、右手と右足が一緒に出てる。それでも。配信者たちは今日、戦うと決め、ブラックスワルト相手に勝利をおさめた。




☆☆☆☆☆★★★★★☆☆☆★★★☆☆☆★★★




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