第10話 多分これが一番早いと思います【配信回】

 基地に戻り雪馬のスマートフォンを急速充電し、その間に休憩と軍用ドローンを含めた装備の使用後、最終チェックを行った。

 行動予定を雪馬に伝えて、中佐と和崇は車載していたマビックをアスファルトに降ろし、フライトの準備を整えた。


「飛ばしますか?」

「ああ。じゃ、飛ばすから後ろに居てね」

「ええと、配信は?」

「良いよ。ただダンジョンに着いて、周囲の安全確保ができてからだ。中佐の指示に常に従ってね」


 無線付き安全帽と粉塵対策のゴーグルを全員装着し、和崇はプロポのアンテナを伸ばし、スマートフォンをプロポに装着した。


「興味深いのでしたら、うしろから覗くと良いでしょう。でも決してオペレーターの前に立ってはいけませんよ。このサイズでも、飛び石は油断できませんので」

「は、はい……!」


 和崇は俺より雪馬ちゃんの方が緊張しているなと思いながら、空に挑む自身へと切り替えた。

 プロポのスイッチを押し、マビックの電動、モーター駆動スイッチを入れる。


 デジタル表示がフライトOKを示し、和崇は20歩ほどの安全確保距離を移動し、周辺を確認した。


「…………飛び石なし、スタート」


 スティックを操作し、粉塵を巻き上げ、マビックは電動プロペラを回転させ、空を飛び始めた。


「おぉ……!」

「中佐。追従を始めます」

「はい」


 左中指で抑えていたスイッチを入れると、一瞬ガクンと反応し、GPS姿勢制御が入った。プロポを中心にマビックは自動追従を始めた。


「では状況を開始します。まずはダンジョンへ向かいましょう」



◇◇◇



 ベンテンガタ・ダンジョンには、何事もなく歩いて到着することが出来た。慣らしも兼ねたフライトも問題なく、唯一壊れなかった狛犬一匹が3人を出迎えていた。


「配信を許可します。同時に、周辺への警戒も慎重にお願いします」

「はい!」


 中佐の許可が降りた。雪馬の持つ小さなドローンが飛び上がり、配信活動を再開した。


【うお、飛んでる】

【マジで一機だけで入れるのか……】

【え、よくわかんない教えてエロイひと!】

【無理難題だ。暗闇の中カメラ付きラジコンヘリモドキなんざ普通動かさん。地下へ電波をどこまでも飛ばせてもな】

【でもAI制御やマップ自動制御すりゃ?】

【大規模ダンジョンならな。でもあれは道基本広いし、数任せの犠牲ありきみたいなもんで……】

【長文乙】

【長い、一言で頼む】

【ベテランだ。想像を絶する程のな】


 中佐はバックから地図が貼り付けられた大きめの画板と、タブレットを取り出した。

 和崇はカメラ機能の駆動チェックと、マビックで周辺偵察を行った。カメラ映像はスマホと中佐の持つタブレットにリアルタイムで送られて、感度は良好だった。


「周辺に危険物、無しです」

「こっちも準備は終わりました。探索を開始してください」

「了解です」


 まったく飛行経路にブレを起こさず、最小限の動きと砂埃をあげて、マビックはダンジョン内部へと入った。


「入口異常なし、一階正面廊下、戦闘痕発見」

「調べて」

「…………集音マイクに感なし、1日以上経過と思われます」

「了解。書き加え終了です。どうぞ」

「はい、通路変化あり、浸水、崩落、魔石を確認」


 ゆっくりと移動しホバリングをしていたマビックは、再びダンジョン内部を飛び始めた。

 数度戦闘痕を発見し、予定の航路が塞がっていて何度か道を変更し飛行していく。

 中佐は器用に翼だけで画板を支えている。情報が和崇から伝えられ、あっという間に地図数枚が、彼女の書き込みで文字だらけになっていく。


【おぉおスッゲー!】

【あの速度で書き上げすんのか……】

【こりゃ今のAIでも無理だ。トラブル対処の幅や情報速度が追いつかん】

【できるのもあるかもしれんが、コンクリフトやハード面での問題があるかもな】

【やだ、カッコイイ……】


【ドラゴニュート、書き上げの速さ……元空自の無線偵察機部隊じゃねえか! 部隊目は、確か】


 コメントを掲示魔法で感じ取った瞬間。中佐は撮影用ドローンのカメラに目線を送り、そっと、人差し指を1本だけ立てて唇に押し当てた。


【アッハイ】

【このコメントはセンシティブな内容を含んでいる可能性があります】

【お、おれ、ファンサされた……!】

【ちがわいあたしにしてくれたんだい】


「敵性妖魔発見。撤退し道を変更します」

「攻撃は?」

「石が装甲を、軽微です。数は3。コボルトと思われます」

「了解」

「罠発見。鳴子です」

「了解」

「…………ん?」


 最下層5階への階段に向かう廊下の途中。和崇は赤い物をカメラで目撃した気がして、ライトを調節し向けた。


「血痕です。新しい。まだ乾いとりません」

「追跡を」

「了解。………マイクに感あり。見つけました」


【おいおい負傷者かよ】

【一応最低ランクダンジョンだよな?】

【ダンジョンだぞ、階層が少なくてもそんなの目安でしかねーよ】

【通報しました(救助的な意味で)】


「ドローン!? なんでぇ!?」

「くっ……話しかけてくれ! 通じるかもしれない!」

「う、うん!」


 マビックは素早く玄室に着陸した。隠れていた2名は、突然現れた機械に驚きつつ近づいてきた。

 マビックには緊急連絡先として、二人の公務、または情報局への連絡先が記されていた。

 中佐が通話越しに確認した情報では、1名が仲間をかばい負傷。もう1名は行方不明。負傷者を含む3名は現在玄室で結界を張り隠れていると判明した。


「あ、このチャンネルだ!?」

「よ、……よし、後は救助を待つ。静かに待つぞ。いいな?」


「…………ふむ、救難信号を再確認。情報局からも連絡です。軍の援軍が半日後来るそうです。私たちは先に護衛と救助、可能な限りの探索と、聖域へ行きましょう」


【半日、遅くない?】


「ゴロゴロ山ダンジョン崩壊の影響です。動員は外に居たゴブリンとオークの追撃中だそうです。負傷者さんたちは最奥の聖域手前で、妖魔に襲われたそうですね」


【すいません親族の者ですがどうしたら】

【慌てず自宅、または社内で待機を通報後は軍が迅速にそちらに向かいます】

【なるほど】

【軍も忙しいな】

【あそこオーク無限湧きだもんな】

【自衛軍に缶コーヒー、差し入れ行ってくるわ】

【お前ら、できることをやるぞ!】

【可能な限り、負傷者に役立つ警戒方法を促そう】

【このコメントは管理者の認証待ちです】

【緊急時だ。ここから先は中佐殿達に返答不要を提案する】

【待機します。通報ありがとうございました】

【異議なし】


「感謝を。ユキメさん。意図せず救援に向かいますが、よろしいですね?」

「は、はい!」

「ドローンはダンジョン内で待機させます。行きましょう」


 マビックを玄室に待機させ、中佐が先頭、雪馬が次に、最後に和崇が殿を受け持ち、ダンジョン内へと速やかに彼らは行動を開始した。






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