第8話 かがくのちからってすげー!【ドローン回】

 和崇はダンジョン内の地図を確認し、装備の点検と選別を行っていた。透明なアクリル・シールドと炭素コンバット・アックス二つ。大中小の作業用ナイフ。

 そして、切り札の大型ナイフ2本と、国産SIGザウアーP220拳銃。刃こぼれ、汚れ、1発目の空砲、装弾、安全装置がしっかりとかかっていることを目視、指先で確認した。


「何を、してるんですか?」

「偵察の準備さ。今、空から中佐が周囲を見てくれているからね」


 大型のボックスワゴンの後部に布を被せて積まれていたのは、中型犬ほどの大きさのドローンだった。

 先日彼女が目にした通り、無骨な無駄のない外見はどう見ても軍用品。雪馬は自身の持つ多少丸っこく、手のひら程度の大きさしか無い撮影用のドローンが、玩具のように思えた。


「今回はコイツで、まずはダンジョン内を偵察する予定だよ」


 和崇はあまりボタンやスイッチのついていない。ほぼ金属で出来た、デジタル表示すら一つも付いていない。シンプルな無線コントローラーを、プラスチックボックスから取り出した。


「プロポって言うんだ。見るのは初めてかい?」

「う、うん」

「なら、少し触って見るか」


 プロポの中央部分のスイッチを入れ、ドローンの電源スイッチを指で摘み入れた。電源を通されたドローンは、プロペラがわずかに生き物のように動き、位置を制御し始めた。

 数秒待ってドローン下部のデジタル表示が操作可能を示し、和崇がプロポのスティックを操作すると、ドローンのプロペラも応じるように動いた。


「わぁ……!」


 感嘆の息を出してしまった雪馬は、恥ずかしくて少し口元を覆った。和崇は少し苦笑したが、気にせずプロポを差し出した。


「良いかい? こんなふうに、ゆっくりとスティックを動かすんだ。しっかり握って……」

「こ……こう?」


 覚束ない手つきでプロポを持つ雪馬を見かねて、肩が触れ合うほど身を寄せ合って、二人はプロポを操作した。

 指先を重ねて、ゆっくりとスティックを操作すると、ドローンのプロペラは正しく反応して、上下左右に動いた。


「フライト前にこうやってチェックするんだよ。でないとちゃんと飛べないからね」

「え、追従とか、自動マップ制御じゃ無いんですか?」

「悪く無いんだが、このあたりのダンジョンは沼地も多くて狭い。変化している事も多い。それだけペイロードもバッテリーも食うし、柔軟にトラブルに対応できる体制の方が良くてね。破損も考えると、追従機能だけで良いさ」


「でも、バッテリー結構持ちますよね?」

「癖みたいなもんでね。昔は大型でも30分持たないなんてザラだったから。今のは消音性もすごいし、かがくのちからってすげーってヤツさ」

「かがくのちからって、モンスターなアレですか?」

「お、よく知ってるね」

「ぬいぐるみ持ってるので……この子の名前は?」

「レア・コイル号」

「え!?」

「冗談だ。BDR−MAVIC MAX ENTERPRISEが正式名称。みんなマビックって呼ぶね」


「…………浮気ですか?」


 二人が声に反応すると、一見柔和な笑みを浮かべて、中佐が触れるか触れないかのギリギリの距離で手元を見上げていた。

 あまりの距離の近さに雪馬はぎょっとして身を引き、和崇は呆れるように鼻から息を軽く吐き出しただけだった。


「プロポの調節を見せていただけですよ」

「小さい女の子がだーいすきな犯罪者ですものねぇ、カズくんは」

「え」

「犯罪行為で訴えるなんて、互いに山ほど……いや、なんでもないっス」


 重ねた指先と肩を離し、今度は雪馬が数歩身を引いた。若干侮蔑と驚愕を込めた目で二人を見つめている。中佐はその反応に、くすくすと笑いを漏らしてしまった。


「くふっ……冗談ですよ、もちろん。……雪馬さんは素直で良いですね。なんでしたらそのドローン、今度調節してあげましょうか」

「中佐。お仕事中ですよ」

「はいはい。グラップコングでした。類人猿に似た妖魔はイケる? 雪馬さん」

「あー……ユキメでお願いします。まだ撮影始めてませんが、本名は、ちょっと……」


「あ、そうか。じゃあ、俺どうしましょうか?」

「カズ坊で良いんじゃないでしょうか?」

「そこはせめて、カズボでお願いします……中佐は中佐で良いですか?」

「良いでしょう。本名ではありませんし。では早速お手並み拝見と行きましょう」


 ドローンの電源を切り、基地の内側で待機させ、ダンジョン周辺の掃討と確認へと向かう事になった。

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