第5話 謎の技術(ゴブリン)【謎の技術回】
聞けば、和崇が推察するに、転移罠を踏まされたのが事の発端だったらしい。よく深呼吸をさせて、水を与え、携行食を与えると彼女はつらつらと経緯を話し始めた。
ふるさと配信の予定日で、ゴロゴロ山ダンジョンの周囲を確認する程度で帰るつもりだったが、誰かが入っていくのが見えて、つい入口近くに踏み入ってしまった。
一瞬で奥まで転移して、命からがらオークたちに追い回されていたと彼女は語った。
彼女は巡回していた軍兵たちと、ダンジョンに入る前に行動予定を話し挨拶していた。
彼らが予定より遅く帰ってこない彼女を案じ、配信を目撃。同じくダンジョン内部を調査していた和崇に緊急連絡が行われ、大規模な魔法行使を確認。彼女を救出したという流れだった。
今現在は保護してくれた自衛軍兵たちに礼を言って、聖域結界の内側、保健所のボックスワゴンでヨコドイ村を目指して移動していた。
「ええと、あなたは?」
「
「
「ゆきま? 勇ましい名前だね」
バキッと彼女の握っていた携行食が折れた。女の子にしては変わった名前で、どうやら機嫌を損ねてしまったと和崇は感じた。
「気に障ったかい?」
「……なんでも、ないです」
引きつった笑顔を向けられた。彼女はそのまま誤魔化すように携行食をバリバリ噛み砕いた。その様子に、和崇は話題を変えようと決心した。
「ゴブリンに誘われたな」
「ゴブリン?」
「転移罠を置かれてハメられたんだ。たまにあるんだ。このへんのゴブリンは人攫いのプロ共だから」
「えぇ、ゴブリンが……?」
「たまに結界の外で戦争してるよ。大概はゴロゴロの連中が勝つけど」
思ってもいない事実と失敗で、雪馬は両手で頭を抱えた。そして、彼女は自分の左手薬指に、見覚えのない無地の指輪が嵌まっている事に気づいた。
「これ、山際さんが?」
「和崇で良いよ。水中呼吸の指輪だ。だめだぜ、風もない閉所で超過火炎魔法なんざ。ドラゴンでもおねんねしちゃうよ?」
「あー……」
ようやく納得が言ったとでも言うように、彼女は間抜けた声を出した。炎魔法による酸欠。年若い火炎魔術師にはよくある事故の一つだと、和崇は経験則で知っていた。
「…………あれ?」
雪馬は指輪を返そうと引っ張った。だが割とキツくもない指輪は、まったく動かず外れなかった。
嫌な予感に、和崇は車を路肩に停めた。
「どうした?」
「この指輪。外れないん、ですけど……?」
「………………マジ?」
左手の人差し指で頬をかく和崇の左手、その左手には、薬指が根元から存在していなかった。
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