第6話 おかわりいただけるだろうか【焼き肉回】
血相を変えて転がるように、二人はヨコドイ村役場に顔を出した。途中ですれ違ったトラクターに跨っていたご老人は、ドタバタ走っていく二人の形相に、ぎょっとして見送っていた。
「中佐! 居ますか!」
「おや、珍しい。随分と慌てた様子ですね。カズくん?」
村役場に残っていたのは中佐と呼ばれた女性だけだった。珍しく竜族。ドラゴニュートの女性で、ダンジョン課のプレートを律儀に立て直した。
凛々しく制服を着こなしている人物で、最大まで上げた業務椅子から小さな姿が降り立つ。
雪馬は一目見て彼女の可憐さに、はわわわわとでも言いたげに口元を両手で覆った。
「む……指輪ですか?」
「指輪です」
彼女はうしろのロッカーから宝玉付きの杖を取り出し、高そうなケープを纏うと、テキパキと何かの準備を進めた。
「あなたの、御年齢は?」
「14です」
「つかぬ事を突然お聞きして申しわけありませんが、将来を誓いあった異性さまが居たことはありますか……?」
「え、いないですけど……?」
「ん。今から指輪の解呪を試みます。気を楽にして下さい」
「は、はい……!」
中佐の持つ杖先に、重苦しい魔力が宿る。彼女はそれを何度か雪馬の指先の指輪に当てたが、汗が滲むほど集中しても指輪が外れる事は無かった。
「無理なようですね。まずは聖域で手を清めるしか無いと思われます」
「えぇ……これ、死の指輪なんですよね……?」
雪馬の嵌めた指輪には、LXⅢの文字が刻印されて浮かび上がっている。ある程度中佐の魔法にも反応した結果のようだった。
「そうです。63日後に死の呪であなたは死亡してしまう可能性が高い。ですが、……文字通り手っ取り早い解決方もありますが」
中佐は頭を抱え沈んでいる和崇の左手を、やんわりと咎めるような目つきで見た。彼は居心地が悪そうに首元を竦めた。
「申し訳ない。緊急時だったんで、ゴロゴロの拾いもんで対処しちまったんだ……」
「悪意は無いとはいえ、どう落とし前を。カズくん?」
「あー……助けるし、責任取るさ」
「ん。それで宜しいでしょうか?」
「はい……あ、あの、聖域がどうの……って?」
「この地区の聖職者では解呪は絶望的。他の地域で頼めるかは、かなり未知数で後回しは確定。ですが、ダンジョン最奥の聖域なら、数ヶ所巡れば私が解呪できると思われます」
「で、でもゴロゴロ山ダンジョン。壊しちゃったじゃ無いですか!?」
「あー……一ヶ月もすれば元通りに戻るぞ。ゴブリン多いと、たまにああやって壊してんだ」
その時だった。半端に胃に物を入れたのが余計に悪かったのか、盛大に雪馬の腹が鳴り響いた。驚いた二人に見つめられて、真っ赤になって彼女は伏せってしまった。
「ふふっ……そうですね。ご両親、または保護者さまは?」
「え。一緒に住んで無いです。連絡なら付きますけど……?」
「…………よろしければ連絡差し上げて、焼き肉でも食べに行きましょうか? カズくんの奢りで」
「え、俺ッスか」
和崇の自家用車でシバタの隣町に繰り出し、彼は体格の割には沢山食べる中佐と、成長期で大量に食べる雪馬に、お詫びと今後の相談も兼ねて焼き肉を奢った。
上司との電話相談の結果。ダンジョン奥地の聖域まで、中佐と和崇の二人が雪馬を護衛、案内することになった。
何故か雪馬はその日、ほとんど豚肉しか食べなかった。
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