続・サバイバル

 昼起きとなったその日、農作業を終えると倫太郎は集めた薪や蔓などを整理していた。蔓は節をとりながら滑していくと使い勝手が上がるので、石を使って一つ一つ滑していく。レノミアは二つ目のカゴ作りと自分の服の修繕をしていたようで、作業を終えると嬉しそうに寄ってきた。


「ふふ、倫太郎さん見てください」

「これは…あれ、短くしちゃったのか」

「はい、その…座って作業が多いので、ワンピースだと擦れてきてしまって」


 少し恥ずかしそうにしながら作品を見せてくれる。確かに昨日まで着ていたワンピースと同じ柄のシャツだ。切った裾も綺麗に縫い止められており既製品さながらだ。


「でもそうすると下の服がないんじゃ」

「そ、それでなのですが…」


 レノミアがこっそりとおねだりをしてきたのは、セパレート型のスカートよりも腰回りにゆとりがあるモンペのようなスウェットだ。少しずつお腹も張ってきたようで、マタニティ用品と言うのだろうか?そういうものも必要になってくるそうだ。もちろん、と、次の外出チャンスでの買うものの一つとして頭の中にメモしておいた。


「洗濯終わったよー。てかさっき魚見たよ!」


 そう言いつつアイハが帰ってくる。そうか、と倫太郎は立ち上がる。一緒に釣りに行こうかと言い、早速滑した蔓を使い釣竿を作ってみる。先にはレノミアのソーイングセットで余っていた縫い針を取り付け芋虫を刺して使うこととして、それを2本持ってアイハと共に釣りに出かけた。


 以前同様少し上流へ行き、二人で川の対岸に位置取って、互いの蔓が絡まないように距離をとりつつ川へ落としてみる。

 それからはしばらく食いつくまで待ち時間だ。お互いに時々あくびしたりしながら蔓を垂らしていると、食いつきは確認したがやはりハリのせいか釣り上げるには難しい。針であれば百均にもあったはずだからと、針を消失するのも勿体無いので今日は諦めることとした。

 その帰り道にまた蛇を一匹捕まえた。処理をする体力はもうないため、串に刺して洞窟のそばに立てて干しておいた。



***


「へえ、じゃあ料理をやってみようとしてるんだ」


 倫太郎は管理所のそばで、10日前と同様に研究員と向かい合っていた。最近の生活について問われ、ヘビを捕まえたが釣りは失敗続きだと伝えると彼は愉快そうに笑っている。


「釣り針だったら百円ショップでも売ってるよ。釣り糸も多分ね」

「それなら…明日か、行ってみる」

「それがいいよ。ところで…」


 そして切り出されるのはやはり、アイハのことだ。1617日齢である彼女の都合を考えるならあと30日以内には妊娠させた方が良いとのアドバイスだ。


「……ラビューナの寿命は、2000日」

「そう。あと400日しかない。一回の妊娠には100日かかるから…」


 まだまだ若く見える彼女のことを思う。あと一年ちょっとで死を迎えるのだとは、今は全くそう思えない。


「前向きに…検討します」

「まあ、そう固くならずにね。この間のようにやってくれたら…おっと!」


 研究員は慌てて口を塞ぐ。この間とはおとといあたりに二人と絡んだ件のことだろう、監視しているのは知っているのだから構わないが、倫太郎は軽くため息をつく。


「ま、まあ…そうだな、色々食材を探すのはいいけれど……、山にいる野生生物はほとんど無害なものだと思うけど、毒性のある生き物も稀にいるかもしれないから気をつけて。体調が悪くなればすぐに連絡するんだよ」


 承諾し帰ろうとすると、頬の傷が気になったとのことでカミソリをプレゼントされた。こういうのは良いのかと聞くと、研究員は「友人へのプレゼントということで」と言っていたので、ありがとうと素直に伝えてこの日は別れた。



***


 外出の日。三人で協力して収穫を終わらせ、植え直す作業は大変だがこれもかなり慣れてきた。利益分である200個を丸ごと換金することにし、昨日もらったカミソリで綺麗に髭を剃ってもらってから髪を結び直して、用意してもらっていた綺麗目の服を着る。それを見たアイハは洞窟の壁に寄りかかり腕を組む。


「何よ、きっちりして」

「外に出るのにあんまり汚い格好だと目立つから…」

「ふうーん? あたしは?」

「え?」

「…あたしも、あんたと一緒に外…行ってみたいかも」


 アイハは髪をいじりながら、少し口を尖らせて見せる。レノミアも驚いたように彼女を見る。倫太郎は呆気に取られていたが、まずは一緒に出かけることが可能か聞いてみようということで管理所へ向かう。キの実の換金を済ませてからいつものように電話機で研究所と連絡を試みる。アイハを連れ出していいかと問うと、思いがけず簡単に許可がおりた。迎えの車はすぐにやってきて、アイハは人見知りするのかずっと黙っていたが何も言われることはなく、いつものように駅のロータリーに降ろされた。


 今日はまず古着屋へ、レノミアの言っていたスウェットを探す。サイズ感や質感はアイハに考えてもらい、無事に腰回りがゆったりとしたスウェットを破格で見つけ、ついでに自分とアイハの服も1着ずつ、叩き売られていたものを買うことにした。

 次にいつもの百均へ。目的の釣り針もいくつも入ったものが売っており、タモ網も含めて購入。最後にスーパーへ行くとこれまた安い片手鍋を見つけた。これがあれば料理の幅も広がると購入を決め、たまにはフルーツも食べないかと言い安売りされていたブロックカットのスイカを買って、また何枚か段ボールをもらい、時間が来たのでロータリーへ。


「なんか、買い物ばっかりだった」


 アイハはイマイチ不満そうだった。人目を忍んで肩を抱き寄せて髪に軽くキスをしてやると、頬を染めながら見上げてきた表情はうっとりと蕩けていて、思わずどきりとさせられる。

 最近の生活では、なんとなくだが、アイハと共にいると甘酸っぱい恋人同士のような感覚になることが多い。


「…このまま、どっかで休んでいきたくなる…な」


 昔読んだ漫画だかにあったセリフを思い起こす。アイハはさらに頬を染めたが……残念。迎えの車がきてしまった。


「次の機会に、ね」


 アイハは恥ずかしそうに言いつつ車に乗り込む。それから帰るまでお互いに無言であった。


 戻るとレノミアが蛇を調理していた。一匹を可能な限りミンチにし尽くして三人前にできたようで、最初は蛇を怖がっていたレノミアの成長に倫太郎は微笑ましい気分だったが…今日食べるのはやめておくことにした。

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