▶第2話のシナリオ

▶第2話のシナリオ



■場所(オべリア王国・ホグル城・城下町・夕方)


レンガ造りの店≪ギャルムントス≫。店先には、荷車が置かれている。


店主の声「毎度あり」


店の扉を開け、クルトが出てくる。クルトの手には、金貨が詰まった袋が握られている。


クルト「なかなか、良い値で売れたな。これだけあれば、ちょっと贅沢しても許されるよね」


クルトは、にかっと笑う。



■場面転換(オべリア王国・ホグル城・城下町・夕方)


町中には、水路が張り巡らされ沢山の船が行き交っている。夕日が沈んでいく。石畳の歩道を歩いているクルトの耳には、買い物や食事を楽しむ者達の楽しげな会話が聞こえてくる。クルトの表情がどんどん曇っていく。


クルト「やっぱり、早く帰ろう」


クルトは、足早にとある場所へ向かう。



■場面転換(オべリア王国・ホグル城・城下町・夕方)


クルトは、一軒の店≪アルト・マージュ≫の前にやって来た。その店は、ひときわ賑やかで外まで声が聞こえる。クルトは、店の扉に手を伸ばす。すると、扉が吹っ飛び宙を舞う。そして、クルトの目の前に落下。扉と一緒に男も降ってきた。高価な服を身に纏っている男は悶絶。


貴族の男「無礼な女だ。僕は、貴族だぞ」


店の中から、給仕服を着たミゼリアが姿を現す。倒れている貴族の男を見下して鼻を鳴らす。黒髪。ボブカット。褐色の肌。紫の瞳。シャープで切れ長なつり目。泣きほくろ。ぽってりした唇。右腕は義手。ボン・キュッ・ボンな体型。


ミゼリア「お客様、従業員のセクハラ行為は重罪です。ただいまより、刑を執行します」


ミゼリアは、貴族の男の股間を踏みつける。


貴族の男「ぎゃぁぁぁぁぁ」


男の断末魔が辺り一帯に響き渡る。街を行き交う通行人の男性達は、股間を押さえうずくまる。ミゼリアは、不適に笑う。


ミゼリア「情けない男だねぇ。仮にも貴族様ともあろう人間が、公衆の面前ではしたなく悲鳴を上げて。恥ずかしくないのかい?」


貴族の男「あぁ、屈辱だ。女に見下されて、踏みつけられて。なのに、この気持ちはなんだ。君になら、何をされても構わない。そう思ってしまう。このえも言われぬ快感は。もっと。もっと、踏んでくれ」


貴族の男は、恍惚な表情を浮かべる。


老人「わしも踏んでくれ」

子供「僕も」


通行人の男性達は、快楽を求めてミゼリアの元へ吸い寄せられていく。連れの必死の言葉も彼らの耳には届かない。ミゼリアは、高らかに笑う。


ミゼリア「とんだ変態だねぇ。じゃ、ご要望に応えようじゃないか」


ミゼリアは、思いっきり男の股間を踏みつけようとする。


クルト「ねぇ、ミゼリア。もう、その辺で勘弁してやったらどうだい?」


ミゼリアの足が、すんでのところでぴたりと止まる。ミゼリアの背中が小刻みに震えている。


ミゼリア「っそ、その。その声は」


ミゼリアは、顔を赤面させて背後に立っているクルトに振り向く。


ミゼリア「王子っ⁉」


クルトは、慌ててミゼリアの口を塞ぐ。


クルト「駄目じゃないか。こんなに人が多い場所で」


ミゼリアの耳にクルトの吐息がかかる。ミゼリアの腰は砕け、地面にへたり込む。


ミゼリア「申し訳ありません」


ミゼリアは、乱れた息を整えていく。


ミゼリア「でも、クルト君。どうして、ここへ。今日の予定では、先に家に帰っているはずでは?」


クルトは、恥ずかしそうに笑う。


クルト「ミゼリアと一緒に帰りたくて、来ちゃった。迷惑だった。かな?」


ミゼリアは、くすりと笑う。そして、クルトの顔を見上げる。クルトの着ている服のあちこちには焦げた跡があり、クルトの頬には擦り傷がある。ミゼリアの眉間に皺が寄っていく。


ミゼリア「クルト君。その傷は何ですかっ⁉」


クルトは、苦笑いを浮かべる。


クルト「やっぱり、気になる?」

ミゼリア「当たり前です」


ミゼリアは、クルトの頬に左手を添える。ミゼリアの左手は光りだし、傷はみるみる治っていく。


クルト「ありがとう」

ミゼリア「まったくもう、無茶はしないと約束しましたよねっ⁉」


貴族の男が、むくりと立ち上がりミゼリアを襲う。


クルト「ねぇ、ミゼリア。後ろ。危ないって」


貴族の男は水を被る。


貴族の男「あれっ、僕は。一体、何をしていた?」


貴族の男は、辺りをきょろきょろしている。


ルナ―ジュの声「ほうら、お前達も目を覚ませ」


空から大量の水が降ってきた。びしょ濡れになった男達は次々に正気を取り戻していく。店の前には、女性が空の木桶を持って立っていた。屋根の上から、頭に角を生やし給仕服を着た筋骨隆々なルナ―ジュが空の大きな木桶を担いで飛び降りてくる。石畳の地面に亀裂が走る。


ルナ―ジュ「はっはっは、愉快愉快」

ミゼリア「女将さんにルナ―ジュ」



■場面転換(道・夕方)


クルトとミゼリアは、手を繋いで歩いている。


クルト「いい人達だね。ミゼリアが働いている職場の人達は」

ミゼリア「ただの能天気な人達です」

クルト「そうなんだ。でも、楽しそうで安心した」


クルトは、にこりと微笑む。ミゼリアは、嬉しいような恥ずかしいような表情を浮かべクルトの手を放して速足で歩いていく。ミゼリアの背中を見つめ微笑むクルト。遠くの空に煙が立ち上っている。


ミゼリア「もう、2年ぐらいですね。一つの国に長居をしすぎたかもしれません」


クルトは、足を止め頭を押さえる。地面に血が滴る。クルトは、顔を手で触る。手には、血が付着している。ミゼリアが血相を変え、クルトに駆け寄って来る。クルトは、気を失い地面に倒れこむ。



(第2話 終了)

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