9話 登録
冒険者の一団としばらく喋った俺は、他にも色々な情報を教えてくれた彼らに礼を言って、冒険者ギルドに向かっていた。
穏やかな風が吹く、気持ち良い快晴。
どこからか、楽しそうに遊んでいる子供たちの賑やかな笑い声も聞こえてくる。
セロンアデス王国は、一部の高位貴族と王族が仕事に忙殺される代わりに、どこの国よりも平和な治世を今日も保っていた。
新しく王太子になった弟は、元気にやっているだろうか?
長年にわたる大量の書類仕事と俺の胃の不調を犠牲に、他の皆とも協力しながら国の平和を保ってきた。
だが、魔物だって活発にしているし、隙あらば国を侵略してこようとする他国の存在もある。
俺が不便にならない必要最低限の数だけを残して、これまで育ててきた俺の手下たちを弟に王太子になったお祝いとしてあげたが、それが弟の助けになっていると嬉しい。
噴水広場の大通りを歩いていた俺は立ち止まって振り返ると、中央にそびえ立つ雄大な城に視線を向けた。
まあ、大丈夫だろう。
俺の弟ならば、きっと上手くやるに違いない。
手放した部下から聞いた最後の弟の評価を思い出して、俺は軽く笑って目尻を緩める。心配する必要はない。弟は俺の予想通り、優秀そうだ。
冒険者の一団に教えてもらった冒険者ギルドに向かうため、俺は城から視線を外すと再び歩き始める。
教えてもらった赤レンガの建物は、大通りを歩いていると直ぐに見つかった。
「おー」
大通り沿いにある建物はどれも立派な物ばかりだったが、ギルドの建物はさらに大きかった。冒険者たちが絶え間なく出入りをしていて、とても賑わっている。
高鳴る胸を押さえて、俺は軽い足取りで建物の中に入った。
「すいません、冒険者登録したいんですけど」
宿で会った冒険者からは、受付に行けば登録手続きが出来ると教えてもらっていた。
教えてもらった通りに受付にやって来た俺は、赤みがかかった茶色の美しい髪をポニーテールにして、可愛い笑顔で強面の冒険者たちに応対していた受付嬢の一人に話しかける。
「はい、出来ますよ。登録ですね」
この世の裏工作を初めとした悪いことを知らない様な純真無垢の笑顔で、俺の言葉に応じてくれる。
……初めて冒険者ギルドに訪れた俺が言うのも何だが、冒険者には
だが、荒くれ者の冒険者に対応しているのにトラブルが起こっていないというのは、きっと裏には腕っぷしに自信がある警備兵のような者がいるからだろう。
「この紙に、名前と職業を書いて下さい」
頷くと、差し出された紙にペンで記入していく。
追放されたので、セロンアデス王国の苗字はない。俺の名前はただのセラディールだ。
職業は……考えていなかったが、一番近いのは剣士だろうか?
これまでは書類仕事に忙殺される形で戦ってきた職業だったが、そんな職業なんて冒険者の役割にはない。
俺は剣の腕前にそこまでの自信はなかったが、紙に〝剣士〟と記入する。
書き終わった紙を可愛い受付嬢に渡すと、慣れた手つきで情報を冒険者ギルドの魔導具に登録して、1枚のカードを作成した。
「これが、セラディールさんの冒険者カードです」
「ありがとう御座います」
差し出されたカードを受け取る。そこには確かに俺の名前と、職業:剣士と書かれていた。
「他の方からの推薦状はありませんでいたので、一番下のFランクからスタートになります。冒険者のランクに関しては、ご存じですか?」
「はい、大丈夫です」
冒険者は国の戦力の一部でもあるから、規則などに関しては知っている。
冒険者は魔物の討伐などの依頼を達成するごとに評価ポイントが記録されていき、ランクを上げることが出来る。
Cランクの冒険者が一番数が多くて、Bランク以上は一流の冒険者だと言われている。
一番下がFランクで、受けられる依頼も少ないし駆け出しのランクだが、俺は高ランク冒険者になりたくて冒険者になったわけではないので、丁度良かった。
Dランクから始められるようにする推薦状も、俺には手下がいなくても偽造する技術はあるが、目立たずに活動するならFランクで充分だ。
俺は受け取った冒険者カードに目を輝かせて眺めていると、受付嬢が言葉を続けた。
「適性検査はされていきますか? 冒険者ランクに影響することはありませんが、これから鍛えていくうえで、参考になりますよ」
「あー……」
冒険者ギルドが所有している、有名な魔導具の一つだ。
それぞれが生まれてきた時に持っている才能を、剣術・魔法・知能・筋力・忍耐力など、様々な項目ごとにFからSランクで評価してくれる量産型の魔導具だ。
通常は各ギルドに一台ずつしか置いておらず、開発した冒険者ギルドが使用権を独占している。
だが才能を測れる魔導具に興味があった昔の俺は、王太子の権力を使って冒険者登録をせずに冒険者ギルドの魔導具で測ってみたことがある。
天性の適性を教えてくれる魔導具について、沢山の噂話を聞いていたのだ。
使った者は口を揃えて絶賛するので、魔導具の性能に期待を抱いて使った時のことをよく覚えている。
「いや、別に良いです……」
若干テンションが低くなった俺が答えると、新しい冒険者は受けていくのが当たり前なのか、受付嬢は思いがけない返答に驚いた表情を見せる。
「えっ、ですがやっておいた方が良いですよ? 自分の才能が分かるし……」
「いや、本当にいいです。登録してくれて、ありがとう御座いました」
礼を言って、俺は早々に受付から立ち去る。受付にそのままいれば、なんやかんや言って可愛い彼女に説得させられられてしまっただろう。
魔導具は生まれ持った才能を測るものだから、再び測定しても同じ結果が出るだけだし、2回も測る意味はない。何より才能を測る魔導具には、決定的な欠点がある。
それは、Sランク以上の才能を測れないことだ。
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