6話 今日は待ちに待った日です。
とうとう俺が楽しみにしていた日がやって来た。
今日は第二王子の暗殺を企んで失敗した俺に、罪状が言い渡される日だ。
「時間だ。出ろ」
地上に続く階段から鎧をうるさく鳴らしながらやって来た物々しい兵士たちに囲まれて、俺は牢屋から出る。
きっと、ダロン公爵を筆頭とした貴族派の息がかかった兵士だろう。
この1週間、俺の牢屋の見張りをしていた兵士たちとはすっかり仲が良くなって、チェスや賭け事をして遊んでいた。
牢屋から出てきて一緒にテーブルでやりませんか? とも言われたのだが、俺は丁重に断って遠慮しておいた。
この一週間で牢屋を抜け出して、俺になりすました手下に牢屋に入ってもらっていたのは、長時間座っていて怠けた身体を動かしに散歩に行ったのと、風呂に入りに行った時くらいだ。
牢に投獄されるのが初めてだったにしては、残念にも暗殺に失敗されてまんまと拘束されている王太子を上手に演じれたと思う。
というか、格子のある牢屋から出たくない。
一度、夜中に気持ち良く寝ていたら、宰相の息がかかった文官が俺の牢屋までやってきて、俺が本来行うはずだった書類を持ってきた。
もうそれは狸寝入りを決め込んでいた俺でも一瞬で分かるぐらい、崩れ落ちそうな高さの書類の山を運んでいる者特有の足取りだった。
魔法を使って叩き起こそうとしてくる宰相の文官に、俺は意地でも寝たふりを続けて仕事を拒絶したが、守られている牢屋から出れば仕事が待ち受けている。
その次の日に宰相と国王が、王太子の拘束部屋として地下牢はふさわしくないと上等な部屋に俺を移そうとしたが、脊髄反射のこどく一瞬で手下に潰させた。
まさか、王太子を仕事させるために準備していた部屋が、誰かによって爆破されるとは思わなかったはずである。
爆弾を仕掛させる前に一応部屋を確認させたが、爆弾に吹っ飛ばされて困るような外交の書類はなかったので、爆弾を予定よりも増量して、景気よく吹っ飛ばしておいた。
そんな俺たちの戦いも、今日で最後である!
俺は貴族派の兵士たちに連れられて、国王たち貴族が待ち受ける大広間に連れて行かれた。
調べたところによると、この後に王位継承権第2位だった弟の第二王子を、王太子に任命する式典が行われる。
弟の王太子任命式が決定して各貴族に伝達されるまで、それほど日数に余裕はなかったはずだが、セロンアデス王国は内政も安定していて団結力がある。
ずらりと左右に貴族たちが並んでいるのを見たが、ほとんどの貴族がここに集まっていた。
王座には、ラデス国王陛下が座っている。
その背後には相変わらず宰相。そして少し離れた目立たない壁に近い場所に、弟のレノンが非常に困った表情を浮かべて立っていた。
集まった貴族たちには、たった数日の間に王太子として盤石な地位を築いていた第一王子が失墜して、自分が王太子になることに覚悟が決まっていないように見えるだろう。
さすが俺の弟なだけあって、演技が上手いことだ。
「罪人セラディール・セロンアデス!」
俺は貴族が囲む大広間で王の眼前に跪かされると、宰相の補助官が羊皮紙を読み上げ始めた。
本来こういうのは国王かこの国で二番目に地位が高い宰相が読み上げるものだと思うが、どうやら悔しみのあまり、自分の手で俺を罪状を言い渡したくないらしい。
……負け惜しみだな。
広い会場に響き渡る声で、宰相の補助官が言葉を続ける。
「第二王子及び、第二王位継承権所有者であるレノン・セロンアデスを狙った暗殺未遂は、この国を揺るがす大罪である!! 従って、罪人セラディールからは王位継承権を剥奪の上、王族から除名、並びに追放処分とする!」
補助官の言葉を聞いた俺は、心の中でガッツポーズを勢いよくきめる。
すでに裏工作をしていたので分かっていたことだが、追放が決定した今、俺の心は喜びで溢れていた。
もう仕事をしなくて良いのだ。徹夜で続ける作業も、上からの無茶な要求も従わなくていい。誰にも発散できない愚痴を、心の中で叫ばなくて良い!
平民に身を堕とせば、王族よりも良い暮らしが出来る……!
喜びを表情に表さないように、プルプルと表情筋を震えさせながら大人しくしていると、俺の裏工作に負けた国王陛下が口を開いた。
「セラディール、なにか一言、言い残したいことはあるか?」
国王陛下は、こき使える俺が居なくなることに非常に悔しそうな表情を滲ませていた。
そう言うところは、本音を顔にだして国王がどうするんだ、と思うが一応、俺も父親の国王にでは無く、弟レノンに伝えたいことがあったので、沈黙を破って答える。
「父上、私は弟レノンを殺そうなんて画策しておりません! 無実です!! ……ちょっと暗殺者と戯れていただけで」
無実の自分を陥れたのは自分自身であって、俺に罪はない。
確かに王座を巡って裏で苛烈な戦いを繰り広げるのが、本来の第一王子派と第二王子派の関係なのだが、俺は昔から第二王子派なのである。
本当に俺は大切なレノンを殺そうなんて、全く考えていなかった。
一応隅のほうで聞いているレノンに、弁明しておく。大好きな弟に俺が暗殺者だと誤解されて嫌われたら、俺は死ねる自信がある。
「……他には?」
俺の発言を聞いた国王陛下が、瞳の奥に光を灯らせて尋ねる。
……父上、もう罪状は言い渡されたのだから、今さら無駄あがきしないでください……。
「国王陛下! 元・王太子のセラディール様が暗殺者だったことには揺るぎがありません! この私も城の衛兵に追いかけられて逃げているのを、見ました。証拠が揃っている今、はやく追放しましょう!」
集まった貴族たちのなかでは、一番王の近くにいたダロン公爵が大声を張り上げて主張する。
良いぞ、公爵。もっとやれ。
今なら普段は蹴り上げたいその顔も、頬ずりしたいぐらいにはナイスアシストだ。
「さあ、早く追放を!」
可愛い弟には俺の無実を伝えておきたかったが、無理難題を押しつけてきた国王陛下には一切伝えることは無かったので、黙って顔を下にしてとく。
こうしとけば、悔しさを押し殺しているように見えるはずだ。
じゃないと、俺の口角が上がってしまっていることがバレる。
「…………そうだな」
公爵の発言に押されるような形で、しぶしぶ国王陛下が頷く。
安全上のために俺を囲んでいた兵たちに、国王が大広間の外へ俺を連れて行くように指示を出す。
そうして俺は追放されました。
めでたし。めでたし。
…………?
そうして新たな地獄が始まった____。
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