2話 どうして俺は追放されない?!


 王太子の俺が王に即位する未来を回避して、この大量の仕事から解放されるにはどうしたらいいか?


 それは簡単だ。


 国王と貴族たちに「あっ、この人を王にするのはヤバイ」と思わせることである。


 なので、王位継承権を剥奪されて、追放されるのが俺の目標だ。




 そして、優雅なスローライフを送る!


 呑気に遊ぶ時間も全て没収された上で、仕事のために睡眠時間を極限まで削って行う日々だ。


 仕事のせいで、俺のストレスは限界突破をしていた。


 もう本当に限界なのだ。


 まずは俺が仕事の合間をぬってしていた、勉強を全て放りだすことにしよう。


 王になるならば必要な授業だったが、王族の立場を剥奪されたい俺に、そんなことは関係ない。


 早速行動を移すことにした。


=====



「従って、近隣諸国の街道における様々な歴史的事件、政治的に起こるであろう今後の衝突は____」


 今日の12時3分から13時1分まで予定されていた歴史学は、俺が幼い頃から歴史学を教えてくれていた家庭教師が教えてくれる。


 腰が少し曲がっていて杖を片手についている爺さんだ。


 俺が何かをしても武術の家庭教師と違って素早く行動できるわけじゃない。


 俺は授業が始まって開始早々に、手を挙げた。


「先生」


「何か質問ですかな? 王太子」


 黒板に街道図を書いていた手を止めて、家庭教師が振り返る。


 俺はコホンと一言息をつくと、窓の外に目を向けて言った。


 抵抗の日々がここから始まるのである!



「今日は良い天気なので、外で昼寝をしてきます。じゃあ!」


 俺は席から立ち上がると、窓の鍵を素早く開けて3階の自分の部屋から飛び降りた。


 もちろん難なく着地をして、広大な城の庭に俺は走り去っていく。


 そんな調子で、俺は全ての授業から抜け出すようになった。



 そして俺は追放されるべく、一度決めた〝怠惰な王太子になろう大作戦〟成功のための努力は怠らない。


 国王が欠席なんかするせいで、全部俺が取り仕切ることになっている国家会議は、貴族たちに俺の新しいイメージを抱いてもらうのに最適な場所だ。


 前までは国王や宰相から指示される結果になるように、大量の下調べをしてから会議に臨んでいたが、今は違う。


 的外れなことを言って貴族たちに呆然としてもらうために、今の俺の下調べは前よりも徹底して行われているのだ。


 しかし、国王が面倒がって俺に全てを押しつけている会議は、クソでもウンコでもゴミだろうと、セロンアデス王国の方針を決める最高議会、国家会議だ。


 俺が提示されてくる要求通りに報告書を提出しなくなっても、父上は相変わらず会議を欠席するので、俺は困り果てていた。


 さすがに超重要な内容を決める会議で、俺の王太子を辞めたいという理由だけでテキトーに方針を決めることは出来ない。


 その時は、しぶしぶ俺も前のように真面目にやるしかない。


 そして今日は珍しく真剣にやらなければいけない議題だった。


 俺は心の中で悪態をつきながら、下座に近い席に座っている伯爵に言った。


「ヌラトス伯爵。貴方の主張も分かりますが、国も全ての地域に来年までに新しい技術を伝達できるほど、人材が余っているわけではありません」


「ですが、王太子殿! 報告書の通りに新技術が開発されたのなら、一刻も早く広めて下さらないと困ります! これは国家防衛にも関わる事なんですよ!」


「だからこそです」


 俺の話を聞いているようで、全く聞いていない伯爵を俺はどうしようか心の中で悩みまくりながら、取り繕った表情を崩さないように頑張る。


 さっきから言われている新技術というのは、誰にも使えるような簡単な魔法で、農業に必要な水を簡単に引き入れることができるという物だった。


 国が抱えている研究者が、最近になって開発したものだ。


「この技術は確かに迅速に広める必要がありますが、間違えた方法で中途半端に活用される様になっては、のちのちに困るでしょう。やはり数年はかかる見通しです」


 俺は予定よりも長引いて何時間にも及んでいる会議で、何度も繰り返した言葉を再び繰り返す。


 伯爵の他にも、納得していない貴族は大勢いた。


 授業をサボるようになってから、かなり俺の睡眠時間は増えたが、この会議が長引いたせいで、今日の予定は押している。


 今日中に終わらせないといけない書類を片付けるために、すでに徹夜が決定していた。


「王太子殿、あなた様では話になりません! 国王陛下を呼んできて下さい!」


 とうとう貴族の一人が、この決定を下した大元である国王を呼んでこいと言う。


 もう既に徹夜仕事が決定していてウンザリしていた俺に、トドメの一言。


「ほぅ……」


 プチンと、俺の表情筋を保させていた感情が抜け落ちた。


 変な笑いがこみ上げてくる。


「おい、ウリシス伯爵。今貴殿は、この私が国王陛下の代理なり得ないと言ったな。


 国王が自信の代わりにと任命されたのが、この私だ」


 今日で徹夜3日目の俺は、どうにでもなれの精神で悪態をぶちまける。


 何ならこの流れで俺を追放して欲しい。


 一番上座の席を立ち上がった俺は、丸腰で武器を持たずに会議に参加しているに向けて、王族としてはヤバいのに、腰に差していた剣を抜いた。


 つかつかと靴の踵を鳴らしてウリシス伯爵の席に近づいた俺は、剣を片手に言葉を続ける。


「国王陛下の判断を疑うかのような発言。それは反逆の意図ありと判断していいのか? ウリシス伯爵」


「い、いえ……! 

 

 も、申し訳御座いません! セラディール王太子様!」


 俺がかなり本気で伯爵をこの場で処分しようか考えていると、伯爵は大慌てで席から立ち上がって地面に膝をつき、臣下の礼をとった。


「セラディール王太子様のご判断に、私は従います。本当に申し訳ありません……!」


 こうやって貴族の意見を聞いて国の方針を決めるような国家会議が開かれているとは言え、この王国では王族の立場が非常に強い。


 絶対王政とはいかないが、その気になれば伯爵程度、王族の一存で首をはねることも実際可能である。


 だが、さすがの俺も席を立ち上がって眠気を覚ましているうちに、あっ……やり過ぎたかも、と睡眠時間を確保出来た時のような正常な思考を取り戻すことができた。



「はぁーっ。……まあ、良いだろう」


 俺は剣を鞘にしまって、落ち着いた声音で言う。


「では会議はこれで終了だ。最初に言ったとおり、数年掛けて新技術は着実に広める」




=====




 あんなに何時間も紛糾しまくっていた会議は、武器をチラつかせるだけで直ぐに結論がでた。


 ちょっとやり過ぎたが、俺の目的は自分の名声を地に墜落させるどころか、地獄の底まで陥没させることである。


 国王に王太子になりたくないって既に言ったのだが、一蹴されている。


 そんな事を考える暇があるならと仕事しろと、さらに仕事をさらに増やされている。


 現状は臣下である貴族の話を聞かない王太子というイメージを作ることに専念しよう。


 その後の会議で、味をしめた俺は同じようなことを紛糾した会議で実行した。


 さすがに剣は抜かないが、全員の言葉を遮って、俺が国のために最善だと思われる案を勝手に決定することを繰り返した。



 ____繰り返したのだ。横暴そうな行動を。


 後日。自分が子飼いにしている配下に俺の評判を調べさせたら、なぜか俺の評価が上がっていた。


 ……いわく、カリスマ性があるらしい。


 よく分からない。なぜそうなる?! 貴族たちだって自分の意見を国に入れたいだろう。そんなに俺が勝手に決めた案が良かったのか?!


 俺は直ぐに、貴族の話を聞く穏やかな方針に戻した。


 そっちの方が貴族に評判が悪い。


 どうやったら俺は自分の評価を地獄に突き落とし、この膨大な仕事から逃げられるのだろうか…………。


 早く解放されたい。自由になりたい。




 誰か、追放のされ方を教えてくれ!!



ーーーーー




 初めて1pvが付いた時、こんな嬉しい気持ちになるんですね。初めて知りましたw

(普段は公募勢です)


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