【朗報】俺、やっと追放される!
人狼
1章 俺、追放される!
1話 面倒な会議。面倒な仕事。
「それでは本日の国家会議を始める。国王陛下は多忙により今日も欠席。そのため、会議で決まった案は私が国王陛下に直接報告する」
長テーブルの一番上座の席に座った俺は、席に着席した貴族たちを見回して言った。
セラディール・セロンアデス。
公式的に好きなことは哲学と、剣術。もちろん苦手なことも嫌いなことも、完璧だと設定されているので、公式的には存在しない。
セロンアデス王国の第一王子であり、次期国王指名がされている王太子。
それが俺だ。
自分の目の前にも広げられている羊皮紙で作られた書類に、再度目を軽く通しながら会議を進めていく。
いたって真面目な表情だ。
「南エリアの一部で、魔物の活動が活発化している。その一方で正反対の北エリアでは、隣国の内戦の影響で、国境周辺の治安が著しく悪化している」
会議の形式上、すでに書かれている議題を無駄に読み上げながら、俺はまた荒れそうな議題だなと心の中で眉をひそめた。
表情に出してしまえば一部の貴族たちが調子に乗り始める。決して表情には崩さない。
そこにはどんな議題も淡々と処理していってしまう、優秀な王太子がいた。
俺はあまり興味は無いが、国境を越えて俺の名前は有名らしい。
「現状、首都から派遣できる援軍はどちらか片方のエリアのみだ。南か北のどちらかに援軍を派遣すれば、もう片方は自力で解決してもらうしかない」
だが、自分の名前が有名だろうと俺には関係ない。
今日も山のように積み上げられるくらい多い俺の仕事を片付けるだけで一日が終わる。……遊びたい。怠けたい。
「諸君の意見を聞こう」
俺がセロンアデス王族の炎を凝縮したかのような赤色の目を向けると、貴族たちは次々と意見を口にし始めた。
「北エリアでの活発な魔物の活動は珍しいことではない。常備兵だけで充分対応できるでしょう。それよりも問題は、南エリアです。南エリアは」
「いやいや待たれよ、サレンズ辺境伯。南エリアよりも重要なのは北エリアですぞ。あちらの方面から魔物が国内に流れ込んできたら、物流に多大な影響がでる」
一人が片方のエリアに軍を派遣すべきと意見すると、他の貴族がそれに反対するかたちで会議はどんどん荒れ始めた。
予想通りだ。
王都に在駐している王国軍は万が一の場合に備えた軍であり、派遣できない。
片方にしか行けない王都軍の行き先を巡って、自分の領地がある方面に派遣して欲しい貴族たちが対立を始める。
王都軍の中から一部だけを経験を積ませるために北エリアに行かせたいので、南エリアの貴族どもを黙らせろ、というのが暴君国王から課せられた仕事だ。
北エリアに領地をもつ貴族は北に軍を派遣して欲しいし、南エリアの貴族も軍を派遣を希望するので、会議が始まる前から分かっていた。荒れるのは。
それでも、決して王族に絶対の忠誠を誓っている貴族家の手助けは借りるなと、きた。
俺は、それぞれの貴族に好き放題に言わせておいた。
気が付けばダロン公爵に話の主導権が移っている。
「____北エリアに領土のある方の意見も分かりますぞ、私は。
ですがな、南エリアが守れなかった場合、国家のメンツとしては宜しくない。残念ですが、今回は南エリアに派遣でしょうな」
ダロン公爵は、一方自身の利益を追い求める利己的な貴族派の筆頭だ。
王族派の者たちと違って、国の利益を考えない。
公爵の領地は比較的南エリアに当たる位置にあるし、このまま南エリアに軍を派遣する流れに持っていくんだろう。だが。
それは困るんだよなぁ……俺が。
話の主導権を返してもらうべく、俺は口を開く。
あとで国王陛下に褒めてもらわければ、こんな仕事やってやれない。たまには良いだろう。
だって普通は成人してから行う代理議会も、14歳でやらされているのだから、褒めてもらわなければ採算が合わない。下調べ大変だったし。
「ダロン公爵。助けを求めてきたのは、北エリアの強い常備軍です。
他人の助力を借りることを嫌う北の者が要請を出してくれるなんて、報告書に上がっているよりも事態が悪いと予想しています」
北エリアに領土をもつ貴族たちが、王太子である俺の言葉に力強く頷く。
「ですがな、王太子殿。南エリアの重要性は____」
そのまま永遠と話し続けそうな公爵の話を俺は途中で手を挙げて遮ると、金髪の髪を軽く振って、笑顔で言葉を続けた。
「公爵の言う通り、南エリアなことを会議で気付かせてもらいました。
では、公爵の領土で所有している私兵を派遣してもらい、それで王都軍の代わりとしましょう」
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会議で出した俺の提案に、公爵はもちろん反発した。
だが結局、王都から派遣する援軍は魔物の活動が活発化している北エリアへ。
そして南エリアには周辺に領土を保有しているダロン公爵を始めとした南エリアの貴族たちに身を切って私兵を出して貰うことで、会議は終わることになった。
ダロン公爵も自分たちの私兵を使うのに反論したかったとは思う。
だけど、これまでの発言で散々南エリアの重要性を説いてしまったから、仕方ないだろう。
俺の手の平で踊らされたとは言え、公爵たちは墓穴を掘った感じで終わらせた。
パーフェクトだ。完璧だ。
面倒くさい仕事の一つを終わらせた俺は、会議の報告書を早々に纏めて父上の元に持っていった。
国王陛下に、会議の結果を報告書を提出して確認してもらう。
今日も頑張った。
指示通りに北エリアと南エリアに軍が派遣される。
「あの……父上。たまには褒めて貰えませんか? 今日も私は頑張りました」
この頃の俺は若かったのだ。
若かった。暴君父上の真髄を理解出来ていなかった。
俺の期待に反して、長い沈黙のあとに並べ立てられる嫌味。
「セラディール。報告書が長い、下手くそだ。
それに西エリアの貴族にも余裕はあっただろう。なぜ派遣させなかった?」
バンバンと報告書を叩く国王陛下の背後には、控えるように宰相が立っていて、宰相もまた国王の言葉に頷いている。
俺は頭に疑問符を浮かべた。
西エリア?
何かの間違いじゃないか?
南エリアの貴族に兵を出させるのは理解は出来るが、今回は全く関係ないエリアに領土を持つ貴族をどうやって説得すれば、膨大な金を使って維持している私兵を出してくれるんだ?
俺は真剣に2人に問いたい。
王太子として分配される大量の仕事。
全く休みのない日々に、上から求められる理不尽にも等しい超難易度の要求。
その時、俺は強く心に決めた。
こんな仕事、辞めてやる!
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