第41話:天才召喚魔術師と予期せぬプロポーズ

 現在私たちは、優雅な空の旅を楽しんでおります。


 行きの馬車とは比べるまでもなく。乗り慣れたポチの背中は快適そのものです。


 竜に跨っている状態が優雅なのか? と、問われれば、そんなのは心持ちよ。と答えますが。


 現在置かれている私とリヒトの微妙な空気感と、一切空気を読まれないやんごとなき身分のお方が相乗りしているこの状況は、優雅とは言えませんね。


 空中という、逃げ場の一切ない拷問の旅。と言っても良いかもしれません。


「ふむ、竜の背に乗るとは中々貴重な体験だ。アインよ、やはり余の妃にならぬか?」


「ぁ、えーっと……ごめんなさい」


「そうか、残念だ。だが、余は諦めの悪い性分でな。これからも隙あらばアインを娶るつもりだ」


「あは、あははは……ビャクコさんって、面白いなー」


「……」


 嗚呼、気まずい。


 王国への帰還途中。

 私の横にビャクコさん、後ろにリヒトと人化したイリナ、一応コクライもリヒトの肩に乗っている。


 マーリンは〝飛翔魔術〟を使いながら遅れて着いてきているけど、最悪はぐれてもマーリンなら自力で帰り着けるだろう。


 だろうけどさ……そんなことはどうでもいいのですよ。


 何故こんな感じになってしまった? リヒトとはあれからまともに話してないし。


 元はと言えば、あの後帰るってビャクコさんへ報告に行ったはいいけど「アインに褒美をまだ取らせていない、余をアインの国まで連れて行け」と言い出したのがきっかけで。


 一国の王様がそんな簡単に国を出ていきなり他国に訪問してもいいの? ダメだよね。


 でも、断れません。

 私も命が惜しいので! ビャクコさん怒らせたら私なんて一瞬ですよ? 

 召喚とかする暇なく一瞬でワンパンっす。マジ、パネェっす。


 そんなビャクコさんに先ほどからずっと「余の妃になれ」を連呼されているんです、本日五回目です。

 良い加減口角の筋肉がもたないっす、引きつり過ぎてピクピクっす。


 いや、ビャクコさんはいい人だと思うよ? 控えめに言っても超絶イケメンだし、モフモフだし! 


 その上尋常じゃなく強くて、王様だからね? 

 更に更にこの時代には珍しく獣族の国は貴族位の人でも一夫多妻じゃないんだよね。


 一度結婚したら、獣族の男性は生涯をかけて伴侶を守り、死ぬまで添い遂げるらしい。


 なに? その幸せ。


 正直〝貴族〟の価値観とか微塵も持っていない私からすると一夫多妻とか有り得ないからね? 


 そう考えるとビャクコさんって、とんでもない優良物件というやつではないでしょうか? 


 ちょっと怖いけど、でも硬派な感じだし、女性に手をあげたりも絶対しないと思える。


 チラリと後ろで遠くを見つめたままのリヒトに視線を向ける。


 腕にはべったりと身を寄せるイリナが幸せそうに頬ずり——羨ましいなコノヤロウ!!


「——っ」


 やば、目があった。って、何で私が避けてんのよ。


 もし、ビャクコさんと先に出会ってたら、私はビャクコさんを好きになっていたのかな。


 私の真横で白髪を風になびかせ、隙のない凛とした眼差しで正面を見つめているビャクコさん。


 うん、めっちゃカッコいい。本当にお世辞抜きでカッコいいんだけど……〝好き〟とは違うんだろうな。


 それは、リヒトと出会って初めて知った感情だから。


 先に出会っていたらとか、そんなの考えてもわからない。


 ちゃんと向き合わないと……リヒトの気持ちも、私の想いにも。


 例え答えがわかり切っていても、ちゃんと伝えよう。本心で、ぶつかってみよう。


 その瞬間の光景を想像し、滲む涙を堪えながら私は決意を固めていくのだった。

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