第21話:天才召喚魔術師の実力

 急に現れたゴスロリパンクな美少女? に全員の視線が注がれる中。

 何この状況? なんでいきなり武器が擬人化? 天の声さーん? いたら解説お願いしまーす。


「これは、なんと不可思議な……今日は、本当に驚かされることばかり。そういえば、いつの日か文献で目にしたような……その昔、大罪の名を冠する七人の——」


「ああ、もうイイから。武器に封印されていたぁとか、人が武器になったぁとか、大体そんな感じでしょ? ま、よかったんじゃない? 勇者様と愉快な仲間たちの誕生ってことで? じゃ、疲れたから私は帰ります」


 なぜか解説しだしたマーリンさん。ごめんね、実はそういう系の情報なんて望んでいません。

 もう、なんか色々面倒くさくなってきちゃったから本当に帰ろうと思う。


「はっ? ちょっと待てってアイン様! この状況! どうすんのこの子!?」


(その通りだぞ、アイン嬢! 小娘っ、リヒトから離れろぉ!!)


 シラっと視線を向ける。リヒトの胸元に頬擦りをしているパンクなゴスロリと、その間で必死に顔を押し除けようと抵抗するグラマーなちびっ子。


 ないよね。なんか色々とない。何やってんだろ私、って感じで急速に感情が冷めていくのがわかる。


「知らない。私、関係ないから? ああ、その〝鎌〟はあんたにあげるわよ」


 ゴスロリパンクな狂人娘に変身する鎌なんて、正直接し方がわかりません。


「ご主人様ぁ、ウチ〝鎌〟なんてダッセェ名前イヤっ、新しい名前、つけて?」


「あ? 名前? 名前……暴食、鎌、グラトニー……いや、違う。なんかこう、鋭利な感じだもんなおまえ……鋭利な、エイリナ、うん。おまえ今日から〝イリナ〟で」


 なんだかんだ言いながらしっかり名付けてんじゃん。知らないよ? 名付けられたゴスロリパンクの瞳が潤んでキラキラしているよ? 


 ああ、これが異世界で美少女を仲間にしていく主人公を傍から見ている感覚か。マジ、フ○ックだわ。

 絶対、あの輪の中に私は入らないからね?


「きひ、きひひひっ! 〝イリナ〟超可愛いいじゃん? イリナっ、きひひ」


(な、な、ずるいぞ! リヒト! わ、我にも名を……)


「いや、おまえは〝コクライ〟って立派な名前があんだろ? ダメだぞ、そういうのは大切にしないと」


(立派な……ああ、そうだな! 我にはリヒトも認めた立派な〝名〟がある! 立派、か。グヒュ、グヒュヒュ)


 おお。ヤンとツンがデレとるデレとる。しょーもな。


「あー、うん。よかったね、おめでとう。じゃあ後は〝愉快なお仲間達〟でごゆっくりデレデレしていてください。私は帰りますので」


「いや、だからちょっと待てって——」


「きひ、てかさ? さっきからご主人様と仲良さげ? なに? なんなのメスガキ? 態度もムカつくしさ? いっぺん食い散らかそうか?」


 言いかけたリヒトを制してゴスロリパンク——イリナが濃密な狂気と殺気を私に叩きつけながらすくりと立ち上がる。


 イライラしているのはこっちも同じですからね? やっちゃうぞ? 手加減なしで本当にやっちまうぞ? って、マーリンがいる手前これ以上手の内は晒したくないからやんないけども。


 一応言いたいことは言わせてもらおう。


「あんた〝ロリババア〟じゃん」


 言ってやった。数百年ぶりとか言ってたし? この手の見た目幼いけど実年齢数百歳的なキャラに一回は言ってみたかった一言! あー、ちょっとすっきりしたかも?


「……あ? 削り喰われろやメスガキ」


 一瞬、ぶわりと悪寒が全身を襲い、瞬きした瞬間には右手を〝大鎌〟に変えたイリナが眼前まで迫っていた。


「早——っ」


 とっさにバックステップを踏み、瞬時に物理的な攻撃を弾く魔術障壁を無詠唱で展開。


 しかし、ニヤリと彼女の口角が吊り上がると同時、なんの問題もなく障壁は大鎌の先端に削り壊され、私は目を見開く。


「——やめろ」


瞬間、ガキンと甲高い音がなり響き、私を庇うように立ちはだかったリヒトが腰から抜いた聖剣を盾に大鎌を防いでいた。


 しかし、あろうことかイリナの右手である大鎌は聖剣をまるでハリボテの玩具でも壊すように切断し粉々に砕いた。


「ご主人様っ——だって、こいつがウチのこと! ババアって!!」


 リヒトの表情を見てか一瞬ビクッと肩を震わせたイリナは、似合わない猫撫で声で甘えるように瞳を潤ませ、右手の鎌をだらりと下ろす。


「おまえは人の事言えないだろ? 俺の武器になるなら、その刃を二度とアイン様に——」




こんな茶番に巻き込まれて? 仲直りしてはい終わり? 冗談じゃない。




 私は迎撃用に展開しておいた術式を発動し、全身にその力を纏う。


 黒い牙の様なつるぎをしならせ、刹那の間にリヒトの脇を通り過ぎた私は、そのまま驚愕するイリナを膂力のまま突き飛ばし漆黒の牙で背後の壁に縫い付け押しつぶす。


「——っきひ!? ば、バケモノかよ……テメェ」


 私の姿を目の当たりにして、ガタガタと小刻みに震えるイリナはそれ以上口を開くこともなく、開放してずり落ちた後も泣きそうな表情を隠す様に、ただ俯いていた。


「あ、アイン様……そのお姿は」


「マーリン、お願い。私の〝力〟は他言しないで」


「も、もちろんでございます」


 驚きに表情を青ざめさせていたマーリンではあったが私の言葉を聞くなり静かに膝をついた。


「す、すげぇな……その、なんというか〝ピカリン〟の時と同じ原理か? それ〝ミケさん〟の——」


「二度と、私を助けないで」

「……」


 で静かにリヒトを睨みつけ黙らせた私は、踵を返し無言のままバルコニーから身を投げその場を去った。


 私は戦える。

 

 転生して十五年——どんな理不尽にも、もう泣くことがないように努力してきた。

 チート能力だけじゃない。バカな兄姉どもが私を見下し、呑気に覇権争いしている間もずっと。


 武術、剣術、槍術、弓術、騎馬術。王族の嗜む〝お稽古訓練〟とは訳が違う。


 寝る間も惜しみ血のにじむ努力をして、わざと危険な魔物と戦い、死地に赴き、比喩なしで死に物狂いな日々を送ってきた。なんのために? 


 圧倒的に自分自身のためだ。

 

 私は二度と誰も助けない、その代わり誰からも助けてもらわない。

 もう誰にも私の人生を奪わせやしない。

 

 どんなに理不尽な境遇でも、絶対に自分の力で自由な人生を勝ち取ってみせる。

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