第4話:天才召喚魔術師の後悔
正直、魔力は限界ギリギリって感じ。後一回やれば命に関わるかもしれない。
秘薬の期限は一日限り……でも今の私なら最悪一年もかからずに素材は集められる。ここは、焦らず現状意地のまま次回にかけるのも選択の一つ。
——でも、そんなのは嫌。
前世の私の半端な行動の結果……あの子の“次”も奪ってしまった。
だから私は決めた。もう自分の事以外、考えない。
せめて自分の行動と自分自身の結果に対しては向き合おうって。
二度目の人生では、あんな〝結末〟絶対に御免だ。
私は〝私の力〟で召喚した勇者を使って、この世界で私の人生を手に入れる。
「私の人生は、私の選択だけで完結させるのっ、よくわからない人達の思惑の中で生きるなんて、絶対に、嫌‼︎」
必死に描き終えた術式に命を削りながら絞り出した魔力を注ぎ込んでいく。
「——ぐぅうっ」
想像よりずっときつい、当たり前か、生命力を削っているのだから。
何が後一年よ、私は十五、この国ではもう成人……私みたいに末端の、力もない王族は自分の意志なんて訴える余地もなく政治の道具に使われる。
きっと私の自由は、あと一年も残されていない。この能力で有用性を示し続けても魔族との前線に送られるのが落ち。
戦争とか、人殺しとか絶対無理。好きでもない相手に嫁ぐのも当然無理!
「だから、今、この瞬間しか、私にはないんだよっ!」
術式に煌々と光が灯る、同時に今まで感じたこともない激痛が全身を駆け巡る。
「——っ! あっ、ぐぅッ」
空になった魔力の代わりに命の灯火が削り取られていく感覚、これヤバイ、死ぬ奴だ。
身体から力が抜け、意識が急激に遠のいていく、プツンと生命のスイッチがオフになる瞬間を感じ取った時。
「アイン様⁉︎ なんと言う無茶をなさるのかっ‼︎ 今、ワシの魔力をっ」
マーリンの声が遠くから聞こえてきた、身体の先端から失われていた温度が再び戻り、全身を柔らかな温もりが包み込んでいく。
点灯するシグナルのようにプツリプツリと途切れかけていた意識が繋がり、視界に色が取り戻されていく。
「ゆ、うしゃ、さま……は?」
「おお、なんと……ここまで王国のために、まさに命がけで勇者様の召喚に挑まれるとは。このマーリン、必ずやアイン様の功績を陛下へとお伝えしましょう」
私を抱き起こしたマーリンが良くわからない事を言っているが、そんな事はどうでもいい。早く勇者様の姿を見なきゃ……引きこもり系オタでも、重度厨二野郎でもない事を願って。
『——えっと、なんだ……この状況』
遠くなる意識を術式の中心に立つ人物へと向ける。
そこには、一人の男性が私とマーリンを見つめて困惑している姿があった。
「——っ‼︎ ちょう、タイプ」
「アイン様? ちょ、ちょう?」
黒よりも黒紫に近い髪色に、鋭い双眸から見える群青の瞳は気怠げな印象だがどこか隙を感じさせない雰囲気を纏っている……何よりも、超絶イケフェイス。
「ま、間違いなく……星四つ以上の超絶レアクラス、やった、私、やった」
「アイン様! お気を確かに⁉︎ まだ昼ゆえ星はありませぬぞ!」
『うわぁ、全然言葉わかんねぇ……どこだよ、ここ。夢? 薬でも盛られたか?』
言葉、そうか日本語で話しかけて、安心して貰わなきゃ……時間内に、意思を確認して、問題なければ勇者に——。
その人と私の視線が重なる。歳は、二十代? ちょっと癖っ毛な感じがなんか、猫みたいな人。カッコいい、それだけでもう良いや、って気分になる。
『お名前は……』
マーリンに抱えられながら必死に声を絞り出した私をジッと見ながら口を開いた。
『……日本語、話せるなら最初から話せよ。と言うかココは何処でお前ら誰? 何者? いきなり人を拉致って、名を名乗れって? 尋問ですか? オタクらヤクザですか? マフィアの人ですか? 夢でも現実でもマフィアでもヤクザでもどうでもいいからよ? 早く〝あの場所〟に俺を戻せ、まだ〝仕事〟の途中なんだ』
『……』
『……』
ヤベー、うぜぇ。ミスった。
「……リリ————」
「りり? アイン様! アイン様ァア‼︎」
私は、どうしようもない不快感を抱いたまま意識を手放してしまった。
夢を見た。
いつも見る、明らかに夢だとわかる夢。
私は今の姿のまま前世の私を見ている。当然、前世の私から今の私は見えてない。
まあ、過去の記憶にこんなにドレッシーな美少女は登場しない。
普通に前世でこんな美少女がじっと私を見つめていたら嫌でも気がつく。
つまりこれはタイムパラドックスとかではなく、今の私が見ている前世の夢だ。
ただ、見え方としては今の私が客観的に〝私〟を見るわけだから、過去の記憶と言うより、多少脚色を加えた夢……異世界の不思議って感じ。
この夢は毎回同じ場所から始まって、夢から覚める瞬間も毎回同じ。本当に寝覚の悪い事この上ない最悪な夢。
私がそれだけこの時の事に囚われているって事なのだろう。まあ、軽くトラウマだしね。
現在〝過去の私〟は、友達のカオリとモエの三人で並び、学校から帰っている途中。〝今の私〟は背後からそっと後を追いかける。周りから見えてないのだから隠れる必要はないんだけど、気持ち的に過去の私を近くで見るのは抵抗がある。
帰り慣れた道を三人でとりとめもない話を繰り返しながら歩いている。
懐かしい、この頃は何も考えずただ漠然と過ごす日々に疑問を持つ必要も、自分の存在を誰かに示す必要もなかった。
今ならわかる、私は間違いなく幸せだった。
「ん? あそこにいるのってミサキと……ミオ達じゃん? 何してんだろ」
ここで、あの子を気にしなければ私は多分この世界に来ることも……〝殺される事〟もなかったんだろうな。
「うわぁ〜、めちゃ空気わるっ、サクラ? いつもの〝好奇心〟はやめてよね?」
この時、カオリの言う事をちゃんと聞いておけば。
「ミオのグループ、最近三年の怖い人たちとよく一緒にいるらしいよ? 関わらない方がいいよ、ね?」
怖がりのモエを気遣って、この場をやり過ごすことができていたなら。
「んん、でもアレってイジメだよね? 私は好きじゃないな、ああ言うの……ちょっと見てくるから、先帰ってて!」
「ちょっ、サクラ!」
「サクラちゃん……」
何を言ってもタラレバなだけ、走っていく私の背中を見つめる二人の表情はとても悲しそうなものだった。
私が向かう先で絶賛イジメられている、一言で言えば結構な美少女 〝春野美咲〟
大人しい性格でパッと見た感じ暗い印象だから気がついてない生徒も多かったけど、隠れ美人と言う感じ。
少女漫画のヒロインにありがちな雰囲気だよね。
でもそれ以外には特に印象の残らない、特別成績が良いわけでもなく、顔は可愛いけど、それだけって感じ。
自分の事を棚に上げて何言ってんだってね。
いいんだよ。上げとこう私は、棚の奥深くにしまっておこう。
過去の私は商店街のアーケードを抜けた先、人通りの少ない路地へと入っていくミオと取り巻きの三人、その後ろをおずおずと付いていく不安そうなミサキ達を追いかける形でこっそりと付いていっている。
それを追う現在の私……なんかシュールだ。
そんな事を考えていると、路地の方から声が聞こえてきた。
「あんたさぁ? 陰キャの分際でなに? 調子乗りすぎぃ」
「……ごめん、なさい」
「は? どう言う事? ウチらのことメンドイから謝って済ませようって?」
「……ご、めん、なさい」
「うざ、泣くなし……ウチらが悪者っぽくない? 悪いのはあんたっしょ?」
「まじ、それな! そうやって男落としてんだろ? ねぇ? おっさんにもそうやって股開いてんの?」
「うそ、援やってるって噂マジなわけ?」
三人に囲まれて攻められるミサキは困惑と恐怖で足を震わせていた。自分がなぜこんな目に合っているのかわからないって感じだ。
「……許して、ください、ごめんなさい」
恐怖で萎縮したミサキからは、もうまともな言葉は出てこない。ただひたすらに現実を拒絶し、逃げ出したい一心で震えながら言葉を紡いでいるようだった。
「まぁじで、イライラするんですけど? 援やってんならさ? 慣れてるよね裸、もう剥いちゃう? 晒しちゃう?」
「——⁉︎ い、いや」
ミオの手がミサキへと伸びる。そこへ過去の私は声をかけるのだ。なにも考えず、なんの責任も持たず。
「おーい、ミサキっ! こんなとこに居たの? めっちゃ探したし、いこ?」
「——ひめ、がみさん?」
過去の私は、ミサキの手を掴んで自分の元へと引き寄せた。
「は? サクラ? なにしてんの? 意味わかんないんだけど?」
「私、ミサキと遊ぶ約束してたから? もう用事済んだよね? 返してもらうよー」
「——‼︎」
過去の私は美咲の手を無理やり引っ張りながらその場を後にする。
ミオ達は、何度か声を荒げるが後を追いかけてくることはしなかった。
それが私たちの出会いだ。私は少し離れたところからただジッとその光景を眺めることしかできない。
「……」
ふっと視線を横に向ける。ミオ達が過去の私と美咲の背中を睨みつけている更に後ろ、私の立っているすぐ近くに、そいつは居た。
篠崎エリカ……私を、殺した女。
思えばこの時から、篠崎エリカとの因縁は始まっていたのだろう。
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