第2章 第2話

翌朝、セレスティアは村の広場に足を運びながら、少しずつ村の様子を観察し始めた。まだ新しい環境に慣れない彼女にとって、村人たちの生活ぶりや、どのような道具を使っているのか、どのように日常を送っているのかがとても興味深く感じられた。


この村では、昔ながらの手法で農作業が行われていた。手押しの木製車や、石でできたシンプルな道具を使い、村人たちは朝から精を出して働いている。どこか懐かしさを覚えながらも、セレスティアは彼らの手元に注目し、何か自分の知識を活かせる部分がないかと考え始めた。


ふと、目に入ったのは、農作業に苦労している青年たちの姿だった。数人の若者が畑を耕していたが、彼らはどうやら土の硬さに苦しんでいるようだった。重い鍬を振り下ろしても、土はまるで岩のように固く、作業は思うように進まない。


「これじゃ作物が育たないなあ…」


一人の青年がぼやきながら、汗を拭った。セレスティアはその様子をじっと見つめていたが、彼らの悩みが自分にも馴染みのあるものだと気づいた。日本で家庭菜園をやっていた頃、同じように土が固くて作物が育たなかったことを思い出したのだ。


「このままじゃ作物が育たないわね…でも、もしかしたら…」


セレスティアは彼らに声をかけようか迷ったが、思い切って一歩前に進み、青年たちに近づいた。彼女は長年の経験から培った知識を試してみることにした。


「ちょっと待ってください。私、少しアドバイスできるかもしれません」


突然の申し出に、青年たちは驚きの表情を浮かべた。美しい若い女性であるセレスティアが、農業の知恵を持っているとは誰も思わなかったのだ。しかし、彼女の真剣な表情に気づいた青年たちは、半信半疑ながらも耳を傾けることにした。


セレスティアは日本で学んだ「土壌改良」の知識を伝えた。彼女はまず、土を掘り返して水はけを良くし、その後で堆肥を混ぜることで、土を柔らかくし、作物の根が伸びやすくなる方法を説明した。特に堆肥を使うことで、土に栄養を与え、作物の成長を促進することができるという点を強調した。


「土を掘り起こして、この堆肥を混ぜてみてください。これで水はけが良くなって、土が柔らかくなります。時間が経つと、きっと作物も元気に育つはずです」


青年たちは少し戸惑いながらも、セレスティアの提案を試すことにした。彼女が指示した通りに、土を掘り返し、堆肥を混ぜてみる。普段の農作業では聞いたことのない方法だったが、彼らは何か変化を期待しながら作業を進めた。


数日後、セレスティアが再び畑を訪れると、そこで驚くべき光景が広がっていた。固かった土は柔らかくなり、作物が根を張り始め、芽が元気に伸びていたのだ。作物の成長が目に見えて分かるほどだった。村の人々はその変化に驚き、歓声を上げた。


「これ、本当に効いたんだな!作物がこんなに元気に育つなんて!」


青年たちは嬉しそうに笑いながら、セレスティアに感謝の言葉を述べた。彼女がもたらした知恵が、村の生活に直接的な変化をもたらし、彼女の提案が正しかったことを証明していた。


セレスティア自身も驚きを隠せなかった。彼女の知識が、この異世界でも通じるという事実に感動し、同時に自信を深めていく。この世界では、魔法や異なる技術が存在しているはずだが、彼女が培ってきた「おばあちゃんの知恵」がまだ通用することが分かり、彼女の中で希望が広がった。


その夜、セレスティアは村の広場で一人静かに星空を見上げていた。異世界に飛ばされ、右も左も分からない状態から、少しずつ自分の道を見つけ始めている。若返った肉体に戸惑いつつも、彼女の知恵は変わらず、むしろ異世界という新しい舞台でさらに輝きを放っていた。


「おばあちゃんの知恵袋が、こんなところで役立つなんて…」


彼女は、自分の持っている知識とこの世界のニーズが繋がったことに、少しの誇りを感じていた。年を重ねて得た経験が、決して無駄ではないと確信したのだ。若返った体を活かしながら、長年の経験と知恵を融合させ、この異世界でも役に立てる自分がいることを嬉しく思った。


翌日、村ではセレスティアの知恵が話題になっていた。村人たちは、彼女の提案によって作物が元気に育ったことを知り、彼女に対する信頼が徐々に高まっていた。セレスティアは村人たちと打ち解けながら、自分の知識を活かして他にも役立つ方法を探り始めた。


ある日、年配の女性がセレスティアに話しかけた。


「あなたの知恵は本当に素晴らしいわ。この村には長い間、こうした知識を持つ人がいなかったの。どうか、これからも私たちを助けてくれないかしら?」


セレスティアは少し考えた。異世界に来て間もない自分が、村の人々をどれだけ助けられるかは分からない。しかし、彼女の中には、ここで自分ができることを探していきたいという思いが芽生え始めていた。


「もちろん、できる限りお手伝いします。私にできることがあれば、何でも言ってください」


セレスティアはそう答え、村人たちとの絆を少しずつ深めていった。彼女の若い体と、おばあちゃん時代に培った知恵と経験。それらを活かしながら、異世界での新しい生活が本格的に始まったのだった。

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