(第一段階)第3章
セレスティアは、村での新しい生活に少しずつ慣れ始めていた。日本で過ごした「さとみ」としての70年間の経験が、異世界でも思いのほか役に立つことを知り、彼女は日々の生活に張り合いを感じていた。村の人々も彼女を受け入れ、作物の育て方や家事の工夫など、セレスティアの知恵を頼りにするようになっていた。
しかし、心の片隅には、自分の過去と今の立場に対する漠然とした不安が残っていた。
「私がここにいる理由って、何なんだろう?」
異世界に転生してからというもの、次々と新しい出来事が起こっているが、根本的な疑問は解決されていない。自分がなぜセレスティアという人物として生きているのか。国外追放の背後にある陰謀は何なのか。そんな思いが頭をよぎる日々が続いた。
ある日のことだった。異変は突然やってきた。
その日はいつも通り、村の広場で農作業を手伝っていた時だった。雲一つない青空が広がる中、村人たちは普段と変わらない日常を送っていた。だが、突然、空気が異様に重くなり、雲が急激に広がり始めた。雷のような音が鳴り響き、風が強く吹き始めた。
「何かが…来る」
不安が胸を締めつける。村の人々も異常を感じ、作業を中断して空を見上げている。セレスティアは自然と体が動き、村の中心に集まる人々の中へと足を進めた。
その時、頭の奥がチクチクと痛み出した。そして突然、視界がぼやけ始める。手で額を押さえ、必死に耐えるも、痛みは強くなるばかり。
「どうして…?」
その瞬間、体が勝手に動き出した。まるで、自分の中にある何かが解放されるような感覚だった。
「セレスティア様…?」
村人たちが戸惑いながら見守る中、彼女の手から淡い光が放たれた。まるで何かが自分の中から湧き上がるように、その光は徐々に強くなり、やがて大きな魔法の紋章が地面に浮かび上がった。
「これが…魔法?」
驚きに満ちた自分の声が震えた。さとみとして70年を生きた経験の中で、魔法なんてものは存在しなかった。それなのに、今ここで自分の手から魔力が溢れ出している。
「やった!雨が止んだ!」
村人の一人が歓声を上げた。どうやら、セレスティアが無意識に放った魔法が、急激な嵐を静めたらしい。彼女はしばらくその場に呆然と立ち尽くしていたが、やがて手を下ろし、周囲を見渡した。
「これが私の力…なの?」
魔法が発現したその瞬間、セレスティアの中で何かが変わったのを感じた。これまでの「さとみ」としての経験だけでなく、異世界のセレスティアとしての力も自分の一部になりつつあることを自覚した瞬間だった。
その夜、セレスティアは村の広場で一人、夜空を見上げていた。初めて魔法を使ったあの感覚がまだ体の中に残っている。
「魔法…か。これが異世界で生きるための私の新しい力なのね。でも、なぜ突然…?」
彼女は何も分からないまま、再び手のひらを見つめた。この力がどうやって発現したのか、どうすれば制御できるのか——それはまだ未知の領域だった。しかし、今は一つ確信していることがある。
「私はただの異世界の迷子じゃない。この世界でやるべきことがきっとある」
これまでの「おばあちゃん」としての自分だけではなく、異世界で得た新しい能力も、これからの自分の人生に大きな意味を持つことを感じた。彼女は決意を新たにし、村の人々と共に、この異世界で生きていく覚悟を固めた。
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