(第一段階)第4章

村に吹き荒れた嵐を静めたあの日以来、セレスティアの中で魔法という新たな力が目覚めていた。かつてのおばあちゃんとしての知恵を活かしながらも、これまで経験したことのない魔法の力が加わったことで、彼女の生活は少しずつ変わり始めた。

しかし、まだその魔法を完全に制御できているわけではなく、時折不安になることもあった。


ある朝、セレスティアは村の広場に出かけ、村人たちが生活の中でどのような困難に直面しているかを観察していた。彼女の目に留まったのは、農夫たちが苦労して作物を育てている様子だった。

「土が固くて、作物が思うように育たないんだ…」

一人の農夫がそうぼやいていた。セレスティアは、自分の知恵袋の中にある「日本での経験」を思い出した。土壌改良の方法や、水を上手に管理する知識が浮かんでくる。しかし、今の彼女にはもう一つ、新しい武器があった。

「魔法を使ってみようかしら…」

彼女はその場に跪き、そっと手を地面にかざした。集中すると、手から暖かい光が広がり、地面を優しく包み込んでいく。彼女は自分が日本で使っていた農法を思い出し、それに魔法の力を融合させた。


数日後、農夫たちは驚くべき変化に気づいた。土が柔らかくなり、作物がぐんぐんと育ち始めていたのだ。セレスティアが考案した魔法と知識の融合による土壌改良は、村の農業に大きな影響を与えた。村人たちは彼女に感謝し、次々と相談を持ちかけるようになった。


セレスティアは、自分の知識と魔法を活かして、さらに多くの道具を改良することを決意する。彼女の次のターゲットは、村で使われている調理器具だった。

村の人々は古くから使い続けている釜や鍋を使っていたが、それらはとても重く、火加減の調整も難しい。セレスティアは、この問題を解決するために、魔法の力で「火を絶やさない調理器具」を作ることを思いついた。日本での「鍋の保温」技術を思い出しながら、魔法のエネルギーを器具に封じ込め、火加減を自動で調整できるようにした。


ある日、セレスティアは村の広場で試作品を披露した。見た目は普通の鍋だが、魔法を使うことで、どんなに強い風が吹いても火が消えず、温度が一定に保たれるのだ。村人たちは興味津々でその鍋を覗き込み、次々と驚きの声を上げた。

「これなら料理がもっと楽になる!」

村の女性たちは特にこの新しい調理器具に感動し、すぐにそれを日常生活に取り入れるようになった。セレスティアの知恵と魔法の融合は、村全体に大きな変化をもたらし始めていた。


その夜、セレスティアは星空の下で一人、村の広場に佇んでいた。自分の力が少しずつこの世界に役立っていることを実感しながらも、心の中にある不安がよぎっていた。

「この力が本当に正しい使い方なのかしら…」

魔法の力は素晴らしいものだが、同時にその力をどう使うべきか悩む日々が続く。自分の持っている知識と魔法がどこまで役立つのか、そしてこの異世界で自分が果たすべき役割は何なのか——。

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