(第一段階)第2章
セレスティアは、冷たい風が吹き抜ける荒野へと降り立った。足元に広がる石畳の道もやがて途切れ、見渡す限りの草原が広がっている。空は澄み渡り、遥か彼方には小さな村らしきものが見えた。
「ここが…私のこれからの場所なの?」
彼女は立ち尽くし、異世界の空気を胸いっぱいに吸い込んだ。日本での日々はもう遠い過去のように感じられるが、心はまだ70歳のおばあちゃんのままだ。しかし、新しい体は若く、元気そのものだった。手を動かすたびに感じるこの軽やかさに、まだ慣れない。
「まずは、あの村に行ってみよう」
セレスティアはゆっくりと歩き出した。彼女の知恵袋にある「老後の知恵」が、この異世界でどう役に立つのかは分からないが、それしか彼女には頼るものがなかった。
村に到着すると、それはとても小さく、まばらな家々が並んでいた。人々は忙しそうに行き交い、セレスティアのことにあまり注意を払わない。彼女は、自分が若く美しい姿をしていることに驚かれないことに、少しほっとした。誰かに事情を聞くべきか、それともこのまま静かに生きるか——。
「そこのお嬢さん、大丈夫かい?」
突然、年配の女性が声をかけてきた。彼女は村で雑貨店を営んでいるらしく、どこかしら母親のような優しい目をしている。
「少し疲れているみたいね。うちで一息ついたらどう?」
「ありがとうございます…」
セレスティアは礼を言って、彼女に案内されるまま、店の中へと入った。小さな雑貨店だが、店内は温かく、どこか懐かしい雰囲気が漂っていた。
店の奥でお茶を飲みながら、セレスティアは少しずつ村について聞くことができた。この村は遠く離れた王国の端にあり、比較的平和な場所だという。人々は農作業や牧畜をしながら自給自足の生活を営んでいるということだった。
「あなたもここで暮らすの?」
店主が優しく問いかける。
「ええ…たぶんそうなると思います。でも、どうやって生きていけばいいのか、まだよく分からなくて…」
セレスティアは正直に答えた。異世界での生活の知識はなく、彼女には自分がこれからどう生きていけばいいのかの見通しが全くなかった。
「そうね…おばあちゃんの知恵が役立つ場面もあるかもしれないわよ」
店主が笑みを浮かべて言った。
その言葉に、セレスティアは何かが心に引っかかった。おばあちゃんの知恵袋——それは自分の人生で培ったものだ。ここでも、それが役立つかもしれない。彼女はふと思い立ち、少しずつ村で役に立つことを探すことに決めた。
翌日、セレスティアは村の広場を歩きながら、様々なものに目を向けていた。村の人々が使う道具、食材、生活の知恵。日本での生活とは全く違う異世界の中で、彼女はじっと観察を続けた。ふと、農作業をしている村人たちが何かに苦戦している様子に気づいた。
「この土、どうしても硬くて作物が育たないんだよ」
村の青年がそうぼやきながら、汗をぬぐっていた。セレスティアはその場に立ち止まり、彼らの苦労を聞くことにした。どうやら、この村では肥沃な土地が少なく、作物が育ちにくいという問題があるらしい。
「うーん…日本で昔、おばあちゃんがやってたことを試してみようかしら」
彼女は思い出しながら、かつて自分が家庭菜園で成功させた土壌改良の方法を提案した。簡単な道具で水はけを良くし、堆肥を混ぜる方法だ。
「これで様子を見てみましょう」
村人たちは驚きながらも、セレスティアの提案を試すことにした。数日後、作物が見違えるように元気に育ち始め、村の人々は大喜び。彼女の知恵が村の生活に大きな影響を与え始めた。
セレスティアは自分の知識が少しでもこの異世界で役立つことに気づき始めた。彼女の若々しい肉体と、おばあちゃん時代に培った経験や知恵。それらを活かしながら、少しずつ村の人々との絆を深めていくのだった。
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