魔法と知恵袋を携えて、異世界で新たな運命を

deep-friedbread

(第一段階)第1章

春の優しい風が吹き抜ける日本の小さな公園。さとみは、静かな朝の散歩を日課としていた。70歳を過ぎたものの、彼女の心はまだ若く、体もどこかしら健康を保っている。しかし、心の奥底に感じる空虚感が拭えなかった。夫は数年前に他界し、子供たちもそれぞれの生活に忙しい。彼女は、毎日が同じ日々の繰り返しに思えていた。

「こんな毎日も悪くはないけど、もう少し…何か違う刺激が欲しいわね…」

さとみは、公園のベンチに腰を下ろし、青空を見上げながら静かに呟いた。そんな平凡な日々を感じていた矢先、突然、空が異様に明るく輝き出す。

眩しい光がさとみを包み込み、その瞬間、意識が急激に遠のいていった。


目を覚ました時、さとみは豪華な部屋の中にいた。壁には重厚なタペストリーが掛けられ、目の前にはゴージャスなベッド、そして精緻な細工の施されたドレッサー。まるで歴史映画に出てくるような異国の空間だった。

「…ここは一体?」

しかし、何より驚いたのは、鏡に映る自分の姿だった。目の前には、若々しい女性の姿が映っている。金色の髪、陶器のように白い肌、大きな瞳。彼女はしばらく自分の手を見つめた。

「これ…本当に私…なの?」

さとみとしての70年間の記憶が、突如若返ったこの新しい姿に強烈な違和感を抱かせる。しかしその思いも束の間、ドアが勢いよく開かれ、甲冑を着た数人の兵士たちが乱暴に入ってきた。

「セレスティア・デ・オルドレッド!国王陛下の命令により、反逆罪で国外追放とする!」

「え、えぇ!?国外追放って、どういうこと?」

兵士たちは問答無用で彼女を引っ張り出し、外へと連れ去ってしまった。状況を把握する余裕もなく、彼女の頭には次々と疑問が浮かぶ。この世界がどこなのか、なぜ自分がここにいるのかも分からない。


城の外に連れ出された時、セレスティアはようやく異世界の景色を目にした。高くそびえる白い城壁、異世界の太陽が照らす石畳の道、そして見知らぬ人々が行き交う市場のような広場。明らかに、自分がいた日本とはまるで違う世界だった。建物のデザインも、衣装をまとった人々の様子も、まさにファンタジーそのものだった。

「これって…もしかして…異世界転生ってやつ?」

日本で聞き覚えのあった小説やアニメの展開が脳裏をよぎる。しかし、異世界での人生が反逆罪による国外追放から始まるなんて、彼女は想像もしていなかった。


連れ去られる道中、セレスティアは再び自分の姿に目を落とした。若い肉体。柔らかくて瑞々しい肌、しなやかな動き。70代だった頃の自分がまるで夢だったかのようなこの感覚。身体の軽さに感動すら覚えつつも、心のどこかで恐怖と不安がこみ上げてくる。

「私、どうすればいいの…?」

そう呟くも、兵士たちは無言のまま彼女を連行する。彼女は自分が何者なのか、なぜこの状況に置かれているのか全く分からないまま、見知らぬ異世界の中で一人きりになろうとしていた。

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