閑話 妻の温もり

アリシアが共寝を望んでいないことは分かっていた。

それでも同じベッドで眠りたかった。


あの冷たい身体を抱えて横になった時、自分の体温を彼女に与えようとしたが、彼女の身体が温もりを取り戻すことはなかった。


痩せ細り華奢な身体が更に壊れそうなくらい儚げで、そっと抱き抱え横になった。

許して欲しい、そう願う懺悔の声は届かず、無情にも夜は明けた。


ミハエルから彼女を渡すように言われたが、どうしても渡せなかった。

私の妻だと叫ぶ声は自分のものだっただろうか、その頃の記憶があやふやで夢かうつつか定かではない。


すぅすぅと規則正しい寝息が聴こえ、レイスを現実に引き戻す。

緩いカーブを描く赤金色の髪を指先で掬う。

身動ぎして無意識に離れようとする身体を、そっと腕の中に閉じ込める。


暖かい。

香油だろうか、柔らかく甘い香りが鼻を擽る。


生きている。


ただそれだけで嬉しい。

レイスは瞼を閉じた。


今日はよく眠れそうだ。

彼女の温もりが傍にあるから。

願わくばこの温もりが目覚めてからも傍にあるように。




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