閑話 医師ミハエルの手記

《王妃殿下 18歳》


王妃殿下から痛み止めを求められる。

症状を訊ねるも要領を得ない。


これまでお身体を診させて頂くことがなかったが、輿入れ時にも感じた身体の細さが目に止まる。

食が細い方だとは侍女からも聴いていたが、この細さは異常ではなかろうか。

陛下に診察伺いを立てるも、王妃のことは伺いも報告も不要、直接対応対処するようにとのこと。



《アリシア様 19歳》

産後の肥立ちが芳しくない。

出産の折り、出血が多く一時的に意識を失われる。

産婆から血がどす黒く気になると報告が上がる。

王子を近づけることを嫌がられる。

乳を絞って届けるよう指示されたり、王子の様子を常に気にされるのに何故遠ざけようとなさるのか…。


夜半に魘されていると侍女より報告。

泣きながら王子を呼ばれるため王子を連れて行くと、近づけてはならないと声を荒げられる。


この頃より侍女を含め人を近づけようとなさらなくなる。

産後の気鬱ということで、室外に必ず人を待機させるよう手配する。


《アリシア様 20歳》

洗濯担当の侍女から報告。

衣類に血が着いていることがある。

月のものかと口にしてこなかったが、妊娠中から産後まで続いていたという。


部屋につけた侍従から報告。

昼夜問わず咳き込む音が聞こえる。頻度が日々増えている。

咳に対して薬を投与。

問いただすと吐血ありとのこと。


感染を案じるも、アリシア様の母上も長く患っていた病と似ているとのこと。

母上の病気は他者に感染はしなかった。それでも誰かに伝染すかもしれないと、人払いをされていたと吐露される。


アリシア様は気持ちを口にすることを恐れているご様子。

些細な表情の変化も見逃してはならない。


《アリシア様 21歳》

病状が悪化の一途を辿る。

回復の見込みなし。

歩いて医務室に通うことも難しくなり、医務室にアリシア様のベッドをご用意することにした。


国内で可能な投薬は全て試すも効果は期待できない。

国外の症例を調べようと伝手を頼るも梨の礫。

(誰かしらの妨害か?)


寝室を移し1ヶ月。漸く陛下が医務室を訪ねられた。

アリシア様の様子に愕然とされていたが、一体今更何をしようというのか。


アリシア様の予後に言及、断言はできないが新年を跨げるかどうかの問題と伝える。


早く治療法を見つけねば。


《アリシア様 22歳》

国外から医師団が到着するも、もうアリシア様の身体は治療に耐えられないとのこと。

何故もっと早くに治療しなかったのかと、有効な薬を投与していれば間に合ったのにと悔やまれる。


痛みを和らげる緩和治療に移行する。

意識のある間にとシュタイン様に何やら書き物を残されている。

しかし目の霞も現れ、手指の力も弱くなり侍従が代筆する。

気丈に振る舞われる姿に、侍従たちからも何か力になれないかと問われる。

心安らかに過ごせるようにとしか言えず、医師として不甲斐ない。


《アリシア様 23歳》

貴方の誕生日を貴方と共に迎えることが出来ていたなら、どれほど喜ばしいことだったでしょう。


陛下が貴方の身体を引き渡して下さいません。


必ずや貴方の身体は貴方の望む場所にお連れ致しますので、安心して眠られて下さい。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る