第2話 アリシアの輿入れ

 王城へ向かう馬車の中、すすり泣きが耳に痛い。


「ミーナ、泣くのはお止めなさい」

 傍らに座っている侍女のミーナは肩を震わせる。


「お嬢様、だって…こんな輿入れあんまりではありませんか」

 ミーナの手はきつく握りしめられており、アリシアは純白のグローブをつけた手をそっと重ねた。


 貴族の輿入れは、夫が妻を迎えに出向き、一緒に婚家へ連れ帰って成婚となる。

 親族や家令に見送ながら馬車に乗り、婚家に向かう沿道には領民が立つのが一般的だ。


 その出立が華やかで賑やかであればあるほど、その婚礼が祝福されたと言える。


 しかし安全上の問題と国民にアリシアの輿入れが知らされることはなく、また夫となるレイスも当日使者により迎えに来れないことが告げられた。


 バーネット公爵は腹を立て、輿入れには有り得ない日も暮れた時刻に馬車を出立させた。


 見慣れた顔が涙を浮かべて馬車を見送ってくれたのを、アリシアはただただ寂しく見つめていた。


 王城に降り立ったアリシアとミーナを迎えたのも、また僅かな侍従のみだった。


 泣き腫らした侍女を連れたアリシアは、真っ直ぐ顔を上げ堂々と歩みを進める。


 無礼な出迎えに声を荒らげたり、泣きわめいたりなど醜態を期待した面々は肩透かしを食らったことだろう。


 反面、その感情を表に見せない様は高慢で鼻持ちならない印象を周りに与えていた。


 迎え入れた者の中には違和感を覚えた者もいた。

 バーネット公爵家の輿入れ馬車は一台。

 通常輿入れは、主を乗せた馬車とは別に生家から連れてくる侍従の馬車が続くものだ。

 少なくとも主と侍女が一緒の馬車で輿入れなどは有り得ない。

 高位貴族ともなると馬車が何台も連なることさえ珍しくはない。


 公爵令嬢が王家の輿入れに馬車1台ということは不自然ではあった。


 アリシアの輿入れは祝福とは真逆の地獄の結婚生活の始まりとなった。




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