嫌われ令嬢の政略結婚~今世は非業の死を回避します
黒兎ありす
第1話 政略結婚
前宰相バーネット公爵家の長女アリシアが王妃として輿入れしたのは18の歳のこと。
美しい赤金の髪、深い緑色の瞳は気の強さを表すかのようにややつり上がっている。
しかし公女を王妃に迎え入れる王城の面々には祝福の声はなく、冷ややかなものだった。
国民から根強い支持を持たれている現国王レイスとバーネット公爵は政敵関係にあった。
レイスの父である前国王は好戦的で野心家、周辺諸国を次々と侵略し領土を拡大していった。
その長子であった兄アレンもまた父親譲りで血の気が多く自ら剣を持ち戦場に立った。
戦で勝ち続け国庫は潤い、貴族の多くがアレンを次期国王に支持していた。
そんな前途洋々な王太子が、戦場で負った小さな矢傷が原因で亡くなろうとは、誰も予想だにしなかっただろう。
アレン亡き後、国王も病に倒れた。
そしてこれまで陽の目を浴びることがなかった、第二王子レイスが皇太子を拝命することなった。
王城は混乱した。
王太子レイスが行った最初の仕事が、官の入れ替えだったからだ。
戦に明け暮れ内政には興味の薄い王の統治は、国の政に関わる貴族たちを潤わせ、官僚の腐敗が広がっていた。
王の信の厚かった宰相バーネット公爵も、またその筆頭と言えた。
バーネット公爵もレイスの改革を黙って見守る訳もなく、両者は何かと衝突しバーネット公爵につく貴族を貴族派、レイスを支持する側は反貴族派と呼ばるまでになっていた。
そのような中、国王が崩御しレイスが新たな王として即位した。
そこで反発する両者を打開すべく結ばれたのが、王レイスとバーネット公爵家令嬢アリシアとの結婚だった。
しかし数年の間で内政を掌握したレイスを支持する官僚側と、バーネット公爵家を支持し政事から外された貴族との軋轢は深く、レイスとアリシアの政略結婚は一触即発な緊張の状態の上で成り立った。
戦で先頭に立っていた兄王子の陰で目立たなかった第二王子レイスは、王太子即位後は政治の才をみせ、またその情け容赦のない采配から一目置かれるようになった。
それと同じく戦で荒れた国土を整え、税を不当に得ていた領主も処罰されていった。
その結果搾取され続けた国民はレイスを支持した。
白羽の矢が立ったバーネット公爵令嬢アリシアだが、彼女の噂は良くないものが多かった。
公爵に甘やかされて育った我儘な気質に、貴族学校にも通っていない教養のない令嬢だといった内容から、異性関係も奔放だという噂まであった。
当初バーネット公爵が政略結婚に差し出してきたのは、アリシアの妹で後妻との間に生まれた娘だった。
後妻の生まれが庶子なことから王家は姉のアリシアを指定した。
アリシアは生母が由緒正しき高位貴族だったからだ。
その際バーネット公爵が難色を示した様子から、愛娘を政敵に嫁がせたくないのだろうとレイス側は判断した。
こちらとしても庶子の産んだ娘を差し出そうとした公爵への意趣返しができたと、そこにはアリシアに教養が備わっていようがいまいが関係はなかった。
なぜならレイスにはアリシアを政治に関わらせるつもりなど甚だなかったからだ。
貴族側を黙らせるための政略結婚、そこには当人たちの感情など必要ない。
これは形だけの結婚なのだから。
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