第37話

 

 次の日。

 レティシアたちと話をするのは夜にするつもりだ。

 日中は学校があるからな。……それに、正直な話をするのなら今すぐに彼女たちと話をしたとして、具体的にどのような話し合いをするのかという問題もあった。

 なので、ひとまず日中に色々と考え、対策を立ててから話をしようと思ったのだ。


 放課後。佐伯が迎えにきたため、俺たちはお嬢様部の部室へときていた。

 ……俺はこの時を待っていた。

 というのも、昨日の部室での様子を見ていた限り、ここでは基本的にそんなに部活動として何かをするということはないため、ここで俺の悩みを相談しようかと思っていた。


 柚香、佐伯、七瀬、榊。この部室には四名もの人たちもいるわけだ。三人よれば文殊の知恵ともいうだろう。四人もいたら無敵に違いない。


「ふふふ、今日も一緒に部活とは……私たちの関係も随分と進んできてしまったな」


 嬉しそうな様子で七瀬がこちらを見てきた。そんなことはないと思うが、彼女の話を皮切りに、俺は話題を切り出そうとした。


「まあ、そうかもな」

「……っ!? そ、そんな……こんなところで愛の紅白とは大胆だなっ」


 あっ、やべ。選択肢をミスったかもしれん。

 柚香がじとっとこちらを見てきていた。それをきいていた佐伯が、首を傾げる。


「そういえば、お二人は仲いいんですの?」

「ふふふ、よくぞ聞いてくれた! 私は小学校、中学校と一緒だったんだ!」


 うん、それだけである。


「んなー!? それはつまり、幼馴染ということですわね!? それは何とも運命共同体ってやつですわね!」


 そんなので運命共同体になっていたら世の中の大半の人たちが共に運命を歩んでしまってるって。


「まあ、お二人の関係はそこまでですけれどね。特に一緒に仲良くなるということはなく、ただただ幼馴染という関係があるだけですよ」


 柚香の冷たい言葉に、七瀬がむきっと目を釣り上げる。


「なんだと!? そ、それはこれから関係を作ろうとして――」

「そもそも、七瀬家は修二に固執することに反対しているようではないですか」

「な、なぜそれを……っ!」

「調べましたので。嫁入りの話やら、婿をもらう話しやら……どうやら色々と話しが上がっているようですね」

「……それは……その――」


 七瀬が表情を険しくして、睨み合う。


「修羅場ですわ、修羅場ですわ……っ。ほら、真島さん! 修羅場の中心核ですわよ!」


 楽しそうに俺の背中をバシバシ叩いてくるんじゃない!

 なので俺はすぐに、話を本来の方向性へと戻していくことにする。


「……まぁ、その話はいったん置いておくとしてな」

「か、関係が進んだことをか!?」


 都合いいところに焦点あてるんじゃないの。


「ちょっと色々と昨日考えていたことがあってな」

「考えていたこと?」

「ああ。漫画とか色々と呼んでいて……ほら、大切な人がいなくなるような展開があるだろ? お嬢様にとって、その大切な人に何かあったときはどうするのかって思ってな。さ、佐伯、どうするんだ?」


 お嬢様、と絡めることで俺は佐伯を味方に引き込む。

 ……俺の作戦はこれだ。この女子三人に話を聞き、レティシアたちを説得するための手段を見つけたかった。

 佐伯は少し考えるようにして、それから問いかけてきた。


「それはつまり、目の前で生命の危機に立たされている大切な人がいるという想定ですのね?」

「……まあ、それでも別にいいけど」

「まずはその方の意識の確認からですわね。それから、119番、AEDの準備など、ですわね!」


 あら、意外と現実的。

 でも、そうじゃない。うんうん、佐伯家の人はちゃんと上級救命の教育がされているみたいだ。偉いぞー。ではない。

 これは俺のミスだな。状況の再徹底をしよう。


「じゃあ、その人が死んでしまったと思って、二度と会えないとなったらどうするのがお嬢様としては正しいんだ?」

「……クローンを作るというのはどうでしょうか?」

「ダメだよ! 倫理的に!」


 いたよここにも、フェリスと同じような考えを持っている子が!


「そして、作り上げたクローンと実際の大切な人との細かな違いに、苦労するんですわ。『ああ! これは私の真に愛した人ではない!』……と、そして、次第に二人の関係には溝が生まれていき、やがてその時……お嬢様は決断しますの。全てを断ち切って、前に進むのですわ!」


 ……ど、どうやら佐伯の場合はそういうシチュエーションを考えて楽しむ、という視点からの意見のようだった。

 だからまあ、まだフェリスとは少し状況は違うか。


「……それじゃあ、それが佐伯に起きた場合、どうするんだ?」

「……え? つまり、た、大切な人たちが皆いなくなってしまうような状況ですの?」

「まあな」

「パパ、ママ……それに、屋敷の使用人や学校の友達たち……そ、そんなの……すげぇ悲しいですわよ……辛すぎて……辛すぎて……」


 あっ、やべぇ! 泣いてしまいそうだ!


「わ、悪かった悪かった。あくまでそういう想像だからな!? うん、もう大丈夫だ! そんなに考えなくていいから!」

「わ、わかりましたわ……っ」


 佐伯がこくこくと頷いてから、息を吐いた。

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