第35話
あいつの場合……俺が「言うなよ」っていってもうっかり口を滑らせる可能性があるから重要な作戦の時はいつも伝えていなかった。
なので滅茶苦茶不安である。フェリスがレティシアとリアンナのために動こうとしても、ポンコツを発揮する可能性がある。
でも、頼るしかない。
……なんでこんな爆弾処理でもしているような気持ちになっているんだ俺は。
俺はさっきと同じく、フェリスの力を意識するようにし、魔力をこめていく。
さっきのでコツを掴んだので、うまくいけそうだ。
フェリスはパーティーでは回復と支援魔法が得意だった。
自分に回復魔法と支援魔法をかけ、最前線に突っ込んでいくのだ。初めて見た時は驚いたね。使い方ちょっと違くない? いやまあいいんだけど。
……リアンナとフェリスがいつも突っ込んでいって、俺とレティシアでそれのカバーをしていたものだ。
だけど、フェリスは……自称最高スペックアンドロイドらしい彼女なら冷静に相談に乗ってくれるかもしれない。
俺はフェリスに意識を向け、彼女の力を借りるために遠見の魔法を展開した。
見えてきた。そして、先ほどと同じように音を拾うようにすると……その瞬間、驚愕の光景が俺の目に飛び込んできた。
フェリスは、何かを作っている。
いや、正確にはアンドロイドのようなものを組み立てているようだ。そして、そのアンドロイド……。
「なんだこれ……俺に似てないか?」
フェリスの目の前に立っているのは、俺に似た何かだった。銀色の金属で構成されたその体に、ぎこちない動きながらもフェリスの指示に従っている。
『では、もう一度お願いします』
フェリスがそういったとき、目の前の機械が声をあげた。
『オデ、シュウジ! オデ、フェリス、ズギ!』
アンドロイドのぎこちない声が耳に届く。
「……なんだこれ? 何やってんだ、こいつは?」
頭おかしくなってしまったのだろうか?
フェリスは冷静な表情で、そのアンドロイドを操作している。
そして、俺に似たその機械を微調整しながら――。
『……シュウジ様にだいぶ似てきましたね』
「似てねぇよ!」
俺は思わず突っ込んでしまったが、もちろん遠くにいるフェリスには聞こえない。
いや、もう似ているとか似ていないとか、そういう問題じゃない。そこは、とりあえずどうでもいい。
……何で俺のアンドロイドを作ってるんだ? そして、なんでちょっと満足そう何だか。
しかも、こんな言語能力の怪しいやつを……。
……まさか、な。
嫌な予感がよぎるが、俺はそれを振り払う。俺も、現実逃避である。
そのときだった。フェリスが、唇をぎゅっと噛み、ポロポロと涙をこぼしながら……再び、シュウジロボに手を伸ばしていく。
機械の擦れ合う音が響き、それに混ざるようにフェリスの嗚咽混じりの声が漏れていく。
その時だった。部屋の扉が開き、ロボットが入ってきた。
『フェリス様。これでもう三日も寝ていません。一度、体を休めてください』
お世話ロボ……だな。
メイドのような服を身につけたそのロボットからフェリスは飲み物を受け取って首を横に振った。
『まだやります』
『フェリス様。これ以上の作業は――』
『必要なことなのです。……シュウジ様がいない世界なんて、フェリスは耐えられません。もう二度と……もう二度と、あんな思いをしたくないのです……シュウジ様を作って、もう一度あなたと……過ごしてみせます。だから、お願いですから、もう少しシュウジロボも似るように頑張ってください……』
『オデ、ガンバル!』
……それは製作者のフェリスが頑張ることだろう。
そうは思ったのだが、彼女のその強い想いに俺は何も言えなかった。
……嫌な予感が当たってしまった。
フェリスも、俺に執着してしまっているのかよ……。
いやここまで想ってもらえることは嬉しい限りだ。だけど、複雑な気持ちである。
普段は感情を抑えたような彼女が、こんなにも強い感情を抱いていたなんて――俺はその言葉を聞くたびに、胸が締めつけられた。
なんで、どいつもこいつも……俺なんかに依存しているんだ。
『フェリス様。シュウジ様をそこまで愛していたのですね』
『……はい。……シュウジ様がフェリスを助けてくれたから……フェリスは、こうして生きているのです。だから、フェリスが恩返しをしなきゃいけないんです。シュウジ様がいなくなったあの日から、ずっと考えていました……どうすれば、もう一度あなたと会えるのかって』
フェリスの声が震えた。その言葉の奥には、失ってしまったものに対する執着や後悔が感じられた。俺が消えたことで、彼女の心には大きな空洞ができてしまったのだろう。
『……シュウジ様、あなたがいないと、フェリスは……ダメなんです。だからあなたを作ろうとしましたけど……まだ、ちょっと違うんです』
いやちょっとではない。
フェリスは昔からそうだが、基本ちょっとポンコツなので、感動的なことを言っていてもどこかツッコミどころを残すんだ。
フェリスは俺に似たアンドロイドを見つめる。その視線は、まるで本物の俺に語りかけているかのようだった。
『……何をしても、シュウジ様の代わりなんていないのは、分かっています。でも……シュウジ様しか、いないんです。だから……フェリスは、どうしてももう一度……会いたいんです』
『……そう、ですか』
『……会って、お礼を伝えたいんです……フェリスを助けてくれて、ありがとうって』
その言葉に、俺は息を呑んだ。フェリスの感情が、痛いほどに伝わってきた。
……フェリスは、もしかしたらまだ二人よりもまともかもしれない。
彼女は、前を向くために……必死に何とかしようとしている。
もしかしたら、フェリスなら――二人のことで協力してくれるかもしれない。
『もう一度。もう一度だけ……会いたいのです。会って、お礼だけ、伝えたいんです』
『……フェリス様』
『あともしももう一度会えたら――もうどこにも行かないよう、フェリスの目の届くところで徹底的に管理するんです』
まともじゃなかった! お礼だけじゃなかったのかよ!
俺は彼女に干渉しかけたところで、その手を止める。
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