第32話
リアンナが、想像以上に俺に依存してしまっていたのは理解した。
彼女の強烈な……激情とも言えるような感情にまでなってしまったのは、俺の責任だ。
……まさか、あそこまで俺のことを想っていたなんて。
嬉しさと寂しさが同居している。……滅茶苦茶複雑な感情だ。
もっと同世代の人と関わる時間が増えていれば、きっと違う展開になっていたはずだ。
……それは、またこれから考えていけばいいか。
リアンナの依存をなくすには、まずは彼女の周りにももっと彼女を思ってくれている人がいることを知るべきだ。
その最たる人たちが、レティシアとフェリスだ。
一緒に旅をしてきた彼女たちならば、恐らくこんな状況のリアンナを見れば、止めてくれるはずだ。
……そうして、リアンナの暴走状態が落ち着いて、もっと彼女が色々な人と関われるようになってほしい。
勇者の導き手として……これが本当に最後の仕事だな。
リアンナの心までちゃんと救わないと。
さて、レティシアとフェリスの二人にどうやってコンタクトをとるか。
……そもそも、リアンナはどうしてこのタイミングで俺に干渉してきたのだろうか?
それまでも、俺に干渉しようとして……できなかったのか?
それとも、何か条件やきっかけがあったのか?
……いや、そもそも。
俺が生きていることを……よく知っていたな。
考えれば考えるほど、色々と疑問が浮かんでくる。
一つずつ冷静にそれらの原因を考えようとしたところで、傍らで寝ていた柚香が動いた。
……タイミング的には、良かったな。
「……あれ? 修二? ごめんごめん、ちょっと寝ちゃってた?」
「ああ。疲れてたんじゃないか? 今日はなんだかんだ色々あったしな」
……もちろん、学園のことである。
俺の指摘に、柚香は軽く伸びをしたところで、小さく息を吐いた。
「かも。……もうちょっと色々とお話したかったんだけど……今日はもう寝よっか」
「そうだな」
俺としても、考えたいことが色々あるので、ここで解散してくれた方が良かった。
そんなことを考えていた時だった。柚香がぴくりと眉根を寄せる。
そして、俺の方へと顔を近づけてきた。
「ふーん。……でもさ、くんくん……なんか、女の匂いがしない?」
な、なんだこいつの嗅覚! そこらの索敵魔法よりもずっと優秀である。
俺は適当に誤魔化す。
「そりゃあ、お前がいるんだし、女の匂いはするんじゃないか?」
「私の匂いじゃないよ。……メイのものでもないね。誰か他にここに来たの?」
怖いよ! ほぼ断定したかのような様子で聞いてくるなんて。
「いや、別にそんなことないけど」
俺は異世界で築いた持ち前のポーカーフェイスで誤魔化すしかない。
内心汗ダラダラではあるが。
「怪しいー。でも、まあ……誰も来れるわけないし……うーん……とりあえず、今日はもう眠いからまたあとで考えよっか!」
可愛らしくあくびをして、伸びをする柚香。
……もう忘れていることを祈るばかりだ。
柚香とはそこで別れ、俺は自室へと戻った。
……さて、これからどうするか。
俺はため息をつきながら、再び思考を巡らせた。
考えるのは先ほどのリアンナの件。
どうやって、この世界にやってきたのかについてだ。
……空間に干渉する技術は、俺たちも持っている。
アイテムボックスと勝手に俺は呼んでいたが、ものをしまっておける魔法が俺たちにはある。
といっても、あくまでこれは装備品など、最低限身につけているものを入れる程度の容量しかない。
……一応、過去の勇者にはそんな高性能な魔法を持っている人もいたので、今の俺はできないことはないけど。
リアンナがあのタイミングで俺に接触してきたのは、たぶんだけど俺が彼女の力を使ったからではないだろうか?
タイミング的に考えると、それが一番納得できそうだった。
……もしも、他の理由があってたまたまさっき干渉したという可能性は一度忘れよう。
もしも、俺が力を使ったタイミングでリアンナが気づいたのなら、俺も同じようなことができるかもしれない。
レティシアやフェリスの力を意識するか。
全身の魔力を意識するように、深く呼吸をする。
……よし、やってみるとするか。
まずはレティシアだな。
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