第4話


 驚きながらも、もう一度魔法を使ってみる。


 ……うん、なんか問題なく使える。

 確認してみたが……異世界で手に入れた力、そしてあの魔界の門で使っていた全ての勇者たちの力が使えそうだった。


 これは……チャンスだ。


 これだけの力があれば、いくらでも生活できるはずだ。


 前の俺は……正社員になかなかなれず、アルバイトで食いつなぐ日々だった。

 ……その結果、安定した収入を得ることはできず、体調を崩してしまうことも多く、だんだんと働ける時間も減って……どんどん肉体と精神が限界に追い込まれていた。


 ……結局結婚も何もできずに、40になったところで、異世界へと召喚されてしまった。


 だが、もしも、16から俺の人生をやり直せるというのなら……。

 これまで生きてきた経験はもちろん、異世界で手に入れた力もある。

 これだけあれば……どんなに低く見積っても人並みの人生を送れるはずだ……!


「……よし、やり直して……幸せに生きよう」


 もしかしたら、あいつらを助けたご褒美なのかもしれないな。

 神様がいるのだとすれば、たまにはいいこともしてくれるもんだな。

 ひとまず……これだけの力があれば、あんな最悪な環境でのバイトだけは無意味なので、やめるとしようか。

 

 さっきから電話が鳴りやまない。

 小森店長からの催促の電話に出ることはしない。

 直接、退職のお願いをしに行くため、転移魔法を発動した。



 コンビニの裏手に転移した俺が入り口側に回ると、苛立った様子の小森店長の姿をみつけた。


 茶髪にピアス。明らかに柄の悪そうな容姿だ。

 ……嫌いなやつだったが、久しぶりに見ると懐かしい気分になるな。


「てめぇ! やっと来やがったか、おっせぇんだよクソが!」


 いきなりの罵倒である。俺は小さくため息を吐きながら、彼をじとりと睨む。


「シフト代わるために来たんじゃなくて、辞めるためにきたんですよ」

「あ!? てめ、さっきからなんだその態度は!? ぶっ殺されたいのか!?」

「……そんなこと言っていいんですか?」

「なんだと!?」


 また、威圧的な言葉をぶつけてきた彼に、俺はスマホの録音画面を見せる。


「さっきの電話からずっと録音してるんですよ。……これ、本社に送られたくなかったらもう俺に関わるのやめてくんないか?」


 俺としても、細かいゴタゴタは面倒なので、そこまではしたくない。小森店長に関わって、俺のこれからの貴重な時間を無駄にはしたくないのだ。

 なので、穏便に仕事を辞められればそれで十分だ。

 だが、彼は顔を真っ赤にしてぷるぷる震え出す。


「てめぇ! オレ様を誰だと思ってんだ! 舐めた口聞いてんじゃねぇぞ!」


 そう言った次の瞬間、拳が振り抜かれた。

 ええ……いきなり暴力に訴えるって異世界人よりも野蛮かもしれない。

 だが……遅すぎる。異世界で得た力や鍛えたものが、そっくりそのままこの体に定着しているようだ。

 彼の拳を片手で受け止めた俺は、その拳を握りつぶすように力を込める。


「な!?」

「……あんまり、手荒な真似したくないんだけど」

「あがあ!? てめ、離せ!」


 彼が蹴りを放ってきたので、俺は硬化の魔法を放って足で受け止める。


「ああ!?」


 小森店長は、絶叫をあげる。俺がぱっと手を離してやると、痛みに悶えるように転げ回る。

 先ほどの硬化の魔法も、勇者のものだ。敵のどんな攻撃も無効化できるほどの硬度になれるらしい。

 硬度は知らんが、どんなに安く見積もっても、鉄を思いっきり蹴ったようなもんだろう。

 下手したら、骨も折れているはずだ。

 俺は涙目の小森店長の前にしゃがみ、笑顔を迎える。


「これ以上、関わらなければ俺も何もしませんよ? 分かりましたか?」

「……っ!」


 小森店長はびくっと肩を振るわせ、涙を流しながら壊れたようにこくこくと首を縦に振る。

 ……よし、これで大丈夫そうだな。


「ちゃんと、給料も振り込んでおいてくださいね? ……もしも、払われなかったら……また来ますので」

「……っ! わ、分かった! 分かったから……!」


 俺はそれだけいってから、小森店長の前から去っていった。

 立ち去る直前。

 俺は小森店長の足の怪我とかはすべて治しておいた。

 ……あとで、変ないちゃもんつけられたら面倒だからな。


 これでもう、俺と小森店長の関係はなくなった。

 ……あとは、これからどうするかだな。


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