第5話 異世界の勇者たち
魔界の門が破壊され、その知らせが広がったとき、世界は歓喜に包まれた。
三人の勇者――レティシア、リアンナ、フェリスたちは、召喚魔法の管理を行っている人間の国へと帰還していた。
すぐに三人を受け入れた国は、その日のうちに大きなパーティーを開催し、国王陛下が明るい声を張り上げた。
「ここに集まった皆の者に告ぐ! 第三百期の勇者たちが……長く続いた忌々しい魔界の門の破壊を行ってくれた! これでもう、我々は……生贄に怯えることなく、日々を暮らしていくことができるようになった!」
国王の言葉に、会場に集まっていた人々は割れんばかりの歓声をあげていく。
いつ、誰が勇者として選ばれるか分からないこの世界では、皆覚悟を持ってはいたが、それでも日々怯えて過ごしていた。
明日に怯えることなく暮らせるようになったのだから、これほど喜ばしいことはないわけで、会場に集まったほとんどすべての人たちが笑顔を浮かべていた。
ただ、三人を除いて――。
華やかな衣装を着させられたレティシアたちが会場を歩けば、あちこちから声をかけられていく。
レティシアたちは勇者であり、姫だ。少しでもお近づきになりたい人は多く、そんな下衆な視線が向けられていく。
「レティシア様、今日もお美しい……!」
「リアンナ様、ぜひ私とダンスを踊ってくれませんか?」
「フェリス様。あちらで私と一緒にお話をしませんか?」
そんな風にあちこちから誘われていた三人だったが、すべてやんわりと断った。相手に無礼すぎないように配慮はしていたが、それでもその愛想笑いにも限界を感じていた。
レティシアたちは温度差のある会場から離れあるように、テラスへと向かった。
三人は人々の喧騒から離れた静かな場所で立ち止まり、空を眺めていた。
「……楽しめない」
レティシアがぽつりと呟く。
「あたし……パーティーだってのに、全然楽しめてないんだけど」
「……私も、もともと、こういうところは苦手、だったけど」
「……フェリスもお二人に同意見ですね」
レティシアは、そんな不満の原因が分かっているからこそ、愚痴をこぼすように口を開く。
「皆、喜んでるけど……なんだか、あたしたちだけ取り残されたみたいな気分よね」
「実際、取り残されてる」
「……そうね」
三人の表情は暗く落ち込み、そして――レティシアは小さな声をあげる。
「皆も、二枚目の手紙が入っていたのよね? どんな内容だったのよ?」
三人宛に置いてあった手紙。一枚目は共通の内容だったが、二枚目はそれぞれに向けたことが書かれていた。
レティシアは、少しでも修二の残した彼の感情に触れたくて、気づけば問いかけていた。
「私のには、『力が強いのも可愛いからお前の魅力だから気にすんなって。それを分からん奴の言うことなんて、聞く必要ないから。お前らしく生きていけ』って。だいたい、そんな感じだった」
「……そうなのね。フェリスは?」
「……フェリスのものも、褒めてくれていました『ポンコツなところもあるけど、努力して補おうとしているのは偉いぞ。多少抜けてる方が可愛いから、そんなに気にしすぎるな』と。でへへ……。このような、内容……でしたね」
一瞬だらしのない表情を作ったフェリスだが、すぐに目を伏せる。
リアンナが小首を傾げた。
「……レティシアは?」
「あたしも……似たような感じよ。『気が強いけど、誰よりも優しいってことは知ってるから。これからもそのままのお前でいてくれ。あっ、でも、そのままだと婚期遅れるかもだからそこはちょっと相手に合わせろよ』って、デリカシーのない言葉のおまけつきでね」
レティシアが、修二の言い方を真似するとリアンナとフェリスもくすくすと笑い出す。
しかし……それも一瞬。すぐに、レティシアの表情はくしゃりと歪んだ。
「これが……シュウジの、最後の……言葉、なのよね」
レティシアの声は、かすかに震えていた。リアンナとフェリスも無言で頷く。
三人は静かに視線を落とす。
「『これから色々なことを経験して、楽しいことを見つけていって、いっぱい人生を楽しめ』ってあったんだけどさ……」
「私のも書いてあった」
「……私のも、ですね」
「……でも、さ。あたしは、そんな楽しいこととか、色々な経験とかも……シュウジと一緒にやりたかったのよ」
レティシアの言葉に、フェリスも小さく頷いた。
「……フェリスもです。シュウジ様とともに、色々な経験をしたかった……ずっと一緒に、いたかった」
リアンナも口を開く。
「……シュウジ、勝手」
「ほんとよね……勝手なのよ。最初から、ずーっと、そうだったわよ! あたしが、海行きたいって行ったときだって、『クラゲ怖いからやだ』って」
「でも、無理やり引きずっていった」
「当たり前よ! 回復魔法使えばいくらでも大丈夫なんだから!」
「……リアンナ様も、祭りに参加したいと言ったときに断られてましたね」
「うん。『騒がしいのめんどくせー』って。無理やり、引きずってったけど」
「ほんとよね! フェリスだってそうよね? 肝試ししたいって言って……い、いやあれはまあ、あたしもあんまり乗り気じゃなかったけど」
「はい。……幽霊というものに興味がありましたので。その、嫌がっていたのを無理やりというのは悪かったかもしれませんが……」
「でも、楽しかった」
リアンナの言葉に、レティシアは苦笑とともにゆっくりと頷いた。
「……うん、楽しかったわね。……シュウジと一緒だったから、もっと生きたいって思っちゃったのに」
「……シュウジと一緒だから、旅を終わらせたくないって思った」
「……シュウジ様と一緒に、もう一度旅をしたかった、ですね」
フェリスの言葉に、二人もこくりと頷く。
明るい声が響き渡るパーティー会場から離れたところで、修二を思い出しながら、それぞれが胸にこみ上げる感情を抑えられずにいた。
パーティーの華やかさも、周囲の祝福の声も、響かなかった。
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