第6話

 俺は久しぶりの日本の街並みを楽しむように、夜の街を歩いていた。

 異世界にもフェリスの出身だった国など、科学技術の発展した国はあった。

 でもまあ……やっぱり異世界と地球だと色々と違う。


 まだ夜の街といっても、時刻は二十時。ちょうど、居酒屋などに入っていく人や、早めに飲み会を開いていたと思われる集団が店から出てくる。


 ……さすがに、今年で十六歳になるこの体だと酒はまずいか。

 まあ、アルコール成分など魔法でいくらでも体に害のないものに変換できるとは思うが、一応は飲まない方がいいだろう。

 ていうか、俺はこの年齢で当たり前のように深夜の仕事をさせられていたが、それ自体が当たり前に違法だよな、確か。

 当時の俺は本当に無知だったな……。


 ……夜の街を歩いていても、いきなり変な奴らに襲われることもなければ、野盗などがいるなんてこともない。

 そこら辺で酔い潰れていようとも、身ぐるみを剥がされることもほとんどないんだし……本当、平和だよな。


 これからどうするかな。


 まるで人生をやり直せと言わんばかりの状況ではあるが……何をしようか。何が、したいか。

 力を使えば、いくらでも何でもできるだろう。

 それこそ、小さな頃はプロ野球選手とかプロサッカー選手とかに憧れていたし、目指そうと思えばそれらにも余裕で慣れるはずだ。


 大金を稼ごうと思えば、いくらでも可能だろう。魔界の門で手に入れたゴールドを作り出す力や、他者の傷の完全な治療の力をつかえば、細かな部分で面倒はあるかもしれんが、いくらでも稼ぐことは可能だ。


「でも別に、な」


 目立ちたいわけでもなければ、大金持ちになりたいわけでもない。

 今俺がやりたことを、考えてみる。

 ……前世……というか、タイムリープする前にできなかったことといえば、普通の生活か。

 特に、十六歳の多くの人が通うことになる……高校。

 それに、行ってみたかった。


 本来、送るはずだった高校生活は、両親のせいで潰された。

 両親が闇金とか、やばいところから借金をしていたせいでだ。

 ……あの時ももっと知識があれば、支払う義務などがないのは分かっていた。

 

 けど、俺は何も知らなかった。

 必死に親の借金を返していったけど……もちろんそれでも失われた高校生活まで取り戻すことはできなかった。


 ……高校。それに大学に通ってみたい。

 漫画とかラノベとかアニメとかでは、よく高校が舞台になっていた。そういった世界で、皆が青春を謳歌しているのを俺は羨ましく思っていたものだ。


 そんな、普通の生活を、送ってみたい。


 え? 陰キャのお前が高校言っても無理じゃね? と煽ってくる俺がいるが、やかましいわボケ。

 昔ならばともかく、今は人生経験豊富なんだからな。異世界ジョークで人気者間違いなしだ。 


 方針がきまったな。

 ひとまずは、制服デートが目標だな。


 今から失われた青春を取り戻してみようじゃないか。

 今の俺なら、一瞬で記憶できるので、勉強で苦戦することはないだろうし。


 ひとまず、今年はのんびりお金を稼ぎつつ、来年に受験でもしようかな?

 それとも、編入試験とかもありかな……?


 ……とりあえずは、十六歳の時の俺に戻らないと。

 十六歳の時の俺は……もっとこう、フレッシュなテンションだった。

 だんだん、思い出してきた。さすがに、リアルの年齢で接していたら、「お前なんか考え方老けてない?」って言われるだろう。

 若々しく、いこう。


 できる限り、元気に、明るく。


 幸い、勇者たちという比較的若い子たちと旅をしていたので、若者のノリというのはなんとなくわかるしな。


 そんなことを考えながら、俺が夜の街を歩いていた時だった。


 ……助けを求める声が聞こえた。


 ……どうやら、魔界の門で獲得したどれかの力が反応したようだ。

 近くから困っている人の空気を感じ取れた俺は、放っておくのも気分が悪いのでそちらへと向かって歩き出す。


 そちらへと歩いていったときだった。

 今まさに車へと連れ込まれそうになっている一人の女子を見つけてしまった。


 栗色の髪を揺らしながら、必死に助けを求めるようにこちらへ手を伸ばしてくる、

 訴えるような涙目が俺へと向けられる。口を押さえられ、声は上げられないようだがその両目が助けてと訴えかけてくる。


「……おい! 見られたぞ!」

「なんだと!? そいつも連れてけ……っ!」


 誘拐犯たちが、俺に気付き慌てた様子で近づいてくる。

 日本戻ってから、二戦目かい。

 案外、日本も物騒なのかもしれん。


 誘拐犯たちは、目出し帽を被り、どこにでも売っていそうな服を着ていた。

 手にはナイフや鉄パイプが握られている。

 ……この車含め、誘拐用に調達した道具なんだろう。


「おい、テメェ、余計なことしてんじゃねぇよ!」

「……いや、そっちの女の子。離してやれよ、怖がってるだろ」

「うるせぇ! 黙ってろ! これ以上口出ししてみろ、タダじゃ済まねぇぞ!」

「……そうか。それなら――」


 俺は地面を蹴り付け、女の子を捕まえていた男へと一瞬で迫る。

 そして、その顔面に拳を叩き込む。


「ぐああああ!?」


 あ、やべ。加減したのだが、拳がかなり減り込んでしまった。

 地球人、滅茶苦茶弱いかも。

 完全に頭の骨を破壊してしまったので、俺は即座にそちらに回復魔法を使って致命傷にならないよう誤魔化す。

 とりあえずセーフか……?

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