第27話
風を切る音。
こちらへと……ナイフが迫ってきていた。
これまでとは明らかに雰囲気の違う一撃だ。
……今までよりは、楽しめそうだ。
殺意を持って現れた一人の男が、一気にこちらへと迫ってきた。
一瞬のうちに距離を詰めてくる。
突然現れた男は、目にも止まらぬスピードで俺に向かってきた。
相手の動きは独特で、何とも不思議な動きだった。足運びが軽く、体全体を使って流れるような攻撃を繰り出してくる。
男は回転するように身を低くし、すぐに片足を軸にして跳び上がると、猛スピードで回し蹴りを繰り出してきた。目にも止まらぬ速さで振りぬかれた足技。
それを俺は片手で弾いたのだが、かなりの衝撃が残る。
次の瞬間、男は再びバク転のように体を回転させ、別の方向からハイキックを放ってきた。
……かなり、独特な動きだな。
予測しにくい連続した回転技で、方向やスピードを絶妙に変えながら攻撃を繰り出してくる。
男の蹴りは途切れることなく、次から次へと連発される。
低い位置から跳び上がりながら繰り出される後ろ蹴り、地面すれすれで繰り出される旋回蹴り、そして足を高く上げてのアクロバティックなハイキック。
まるでダンスのような流麗さで、攻撃が俺へと迫る。
……ただまあ――もう十分見させてもらった。
俺は身体能力を引き上げるため――俺はリアンナの力を呼び覚ました。
俺とリアンナでは、そもそも種族が違うため完全にリアンナのそれを再現することはできない。
ただ、魔力をその分多く消費することで、肉体を強め、体全体を強化していく。
重くなった拳を握りしめ、男の次の攻撃を迎え撃つ。
男は再び低い姿勢から跳び上がり、空中で回転しながら足を広げて飛び蹴りを放ってきた。その攻撃を片手で弾くように押し返す。
「……ッ!?」
男が驚いた様子でよろめく。そこから俺は……先ほど彼がやったのと同じような足技を繰り出す。
「な……!?」
想定外だったのか、男は驚いたような声をあげながら、俺の一撃を受け止めたが……のけぞる。
同じ動きをしていても、俺の方が身体能力は高い。
驚愕する男の体勢が崩れたその瞬間、俺はそのまま彼の足を振り払う。
そして、完全に隙だらけとなった男の体を、蹴り上げる。
男の体が宙に浮かび、そのまま地面に叩きつけられる。しかし、そこからでも体勢をすぐに戻した男はすぐに後方に転がり、素早く立ち上がった。
再びリズムを刻むようにして連続した蹴り技を繰り出してきた。常に揺れ動く身体を使い、フェイントを交えたキックが次々と襲いかかる。
さらに加速し、俺が攻撃についてこれないようにしたつもりなのだが――遅い。
男がハイスピードで迫ってきたタイミングで、男の頭部を狙った逆回転のハイキックを繰り出した。
慌てた様子で腕をクロスさせて俺の攻撃を受けたが、その防御ごと、打ち破る。
「がっ!?」
男はその場で崩れ落ち、こちらに視線を向け、力なく笑った。
……一応、大怪我をしないよう、加減はしてやった。
「あんたが、和馬に雇われた殺し屋だな?」
「……ああ、そうだ。まいった……まさかこれほどとは……学生だと聞いていたが、あまりにも強いな」
やっぱり、そうだよな。
苦笑をこぼしながら、よろよろと体を起こした彼は、両手をあげている。
「もうこれで試験は終了だ。和馬様には、オレから報告をしておこう」
「……おう」
依頼を受けて襲い掛かってきたと思っていたので、俺としても彼に怪我をさせないように手を抜いた、というわけだ。
「よし、これで無事試験も突破したな」
「……うん。やっぱり、滅茶苦茶強いね、修二」
「……まあ、一応はな」
「これはもう、私の正式な騎士様として合格待ったなしだね」
……まあ、これで和馬の試験はこれで無事終了だろう。
あとはこれで和馬が納得するかどうか、だな。
そんなことを考えながら、俺たちはメイが待つ場所へと向かっていった。
無事、殺し屋を撃退したその日の夜。
俺は柚香の部屋へと呼ばれていた。
何でも、今日討伐した例の殺し屋の件で、お兄様から大事な話があるそうだ。
ビデオレターが再び送られてきたそうなので、それを柚香の部屋で見ることになっていた。
彼女の部屋に入ると、すでに風呂上りの柚香がパジャマ姿でベッドに腰掛けている。こちらに気づいた彼女は軽く手を振ってくる。
その傍には、メイの姿もあった。俺の入室に気づいた彼女は、すぐにビデオレターを回し始めた。
「それでは、早速確認していきましょうか」
彼女の言葉に合わせ、部屋にあったスクリーンに映像が映し出される。
そこは……どこかの部屋なんだろう。かなり大きな部屋の中……見覚えのない男性が椅子に腰かけ、こちらを見ていた。
和馬に顔たちが似ているのだが、若い。
「この人は誰だ?」
「雅人お兄様だね。和馬お兄様の弟、私の五つ上のお兄様だよ」
「……ほーん、なるほどな」
そう言われると、納得だ。
「だけど、なんで和馬じゃなくて次男の方がビデオレター送ってきたんだ?」
『真島くん、だったか。キミが殺し屋をあっさり撃退したせいで、兄さんが暴れすぎてしまってね。とてもじゃないが動画を撮影できる状況になかったのでね。今回は僕がこうして撮影をさせてもらってるよ』
「だ、そうだよ?」
そうですか……。
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