第26話
「どのようなジャンルのものを好みますの?」
「うーん……ファンタジー系か? ネットとかで無料で読める奴を適当に読みまくってたな」
「なるほど。確かに最近はそのようなジャンルのものも流行っていますわよね。よくお嬢様が出てきますのでわたくしも嗜んでいますのよ」
あっ、その結果こんな変なお嬢様ができちゃったのか。
もっと学習教材を選ぶべきだったな。
「柚香と七瀬はどうなんだ?」
「そこそこ、ですかね? 私もファンタジー系は結構好みですね。特に、家臣と主人が結ばれるような作品とかが大好物ですね」
「私も……多少は読むぞ? 幼馴染がメインヒロインの作品をよく読むようにしている。幼馴染はいいぞ、修二」
お前たち自分の立場に当てはめすぎじゃない?
「ですが、幼馴染って負けヒロインのイメージが強いですよね」
なぜそこで煽るんですかうちのお嬢様は。
「なんだと!? むしろ、幼馴染こそ王道だろう! ぽっと出のどこかのお嬢様がかっさらうなんて、そんなことが許されてはいけない!」
「ですが、世の中にそういった作品が多くあるということは、そういう願望の方が多いのではありませんか?」
「それは国が悪いんだ! 私がもしも国のトップに立つようなことがあったら、幼馴染がメインヒロイン以外のすべての作品は燃やすように指示を出す!」
「ぬが!? そ、それはさすがに過激すぎますわ! やめてくださいまし!」
「一応、幼馴染はお嬢様にしてやる!」
「……そ、それならば、許しますわ!」
許すんじゃない。
そんなこんなで柚香と七瀬が言い合いをしている中、俺は榊の方へと視線をやる。
「榊は漫画とか読むのか?」
「……オレは……少女漫画とか、だな」
「……そうなんだな」
猫と戯れるのが好きで、少女漫画が好きなのか。
見た目は強面だが、かなり可愛い趣味を持っている。
そんなこんなで、俺は三人がなんだかんだ盛り上がって話しているのを見ていた。
……普通の高校生活、っぽくないだろうか?
いや、たぶん普通の高校生活よりも充実している気がするな。
「それでは、今日の活動はここまでにしますわね。いい、意見交換ができて、わたくし、とっても楽しかったですわ」
意見交換というかお互いに意見をぶつけまくっていただけだと思うけど。
とはいえ、柚香と七瀬もまあ楽しくなかったわけではないようで、渋々と頷いている。
「……そうですね」
「……そうだな」
「今後、集まるときはわたくしに言ってくださいまし。いつも部室にはいますが、たまに家のことで来れないときもありますので、確認してくださいな」
「それなら、連絡先を交換しておいた方がいいんじゃないか? 行くときはそこに連絡したほうがラクだろ」
「それ、ナイスアイディアですわね!」
……びしっとこちらに指を突き付けてきた佐伯は、それからスマホを手に取った。
七瀬が、何やら俺を見て、緊張した様子でスマホを持っている。
「どうした?」
「い、いや……その……こうして、連絡先を交換することになれるなんて、思っていなかったからな」
「……そうか?」
「ああ! 私が一方的に修二の連絡先とか知っていただけだったからな……これまでは、合法になるんだな!」
聞きたくなかったよ、その言葉は!
「……あなた、人のこと勝手に調べるのはよくないと思いますが」
俺はお前におねしょをしていたのも調べられてるけどな。
「し、仕方ないだろう! わ、私から声をかけるのは……恥ずかしかったんだから……っ! 修二! 私は友達がいない故、連絡先の交換方法は知らない。やってくれないか?」
「……そうか」
「な、何? どうした? そんな悲しいものでもみるかのように目は」
……い、いやその。
七瀬も色々大変だったんだなとしか思っていない。
そういえば、確かに小学校や中学校のときの彼女が、誰かと一緒にいたのを見たことがない。
あれ? ていうか、なんか記憶を掘り返すとだいたいいつも隅の方に七瀬が映ってる。
うん、きっと気のせいだ。
ひとまず、全員の連絡先を交換した。……七瀬にはやり方を教えつつだ。
「真お嬢様部」のグループが出来上がり、俺たちは一緒に下校していく。
生徒玄関を出たところで、佐伯がこちらを見てきた。
「わたくしは向こうの駐車場に迎えがありますので、ここで!」
ぺこりと佐伯が頭を下げたので、俺たちも彼女の背中を見送った。
さて、俺たちも帰ろうか。そう思ったときだった、七瀬がじとりとこちらを見てくる。
「私も迎えが来ているのだが……修二と橘は違うのか?」
「ああ、まあ、そうだな」
「私たちは途中まで、一緒に歩いて帰ることになっているので」
「な、なんだと!? げ、下校デート……!?」
「はい」
はいじゃないが。
「う、羨ましいぃぃぃ! な、なぜそんな……! 橘だけ! わ、私もともに帰るぞ!」
「お迎えの方に、ご迷惑になってしまいますよ?」
「……そ、それは――くううう! 明日から、覚悟するのだな、橘柚香!」
七瀬はそう叫び、涙目とともに走り去っていった。
……ふう。
なんか……濃い……一日だった。
「それじゃあ……帰ろっか」
「……そうだな」
俺がそう返すと、すぐに柚香が俺の腕を掴んできた。
「……どうした?」
「今日一日。色々な人に浮気されたからね」
「いや、そもそも浮気じゃなくてな」
「キミは、私の騎士様なんだからね?」
……まあ、そうだけどさ。
もしも、出会う順番が違ったら、別の関係になっていた……可能性はなきにしもあらずではないだろうか。
そんなことをぼんやりと考えながら歩いていた時だった。
――何かが俺たちに迫ってきた。
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