第25話



「……具体的にはどんな研鑽を?」

「毎日漫画などでお嬢様の研究をしてんですのよ!」


 研究材料を変えた方がいいのではないだろうか?

 部屋には漫画とかが置かれている理由は分かった。

 ていうか、よく見たら隅の方にゲームまで置かれている。たぶん、お嬢様が出てくるようなゲームをやっているんだろう。


「でも、真のお嬢様っていう話なら俺は男だから入部資格ないんじゃないか?」

「安心してくださいまし。今の時代、性別なんてものは飾りですわよ?」

「……お坊ちゃまを目指せとかじゃないんだな」

「はっ! 部員がなかなか集まらなくて困っていたのは、それが原因でしたのね!? 門扉を広げれば、もしかしたら部員がっぽがっぽ稼げるかもしれませんわよね?」

「いや……どうだろうな……」


 たぶん、皆が佐伯のテンションについていけなくて断ったんだと思うし……。

 だって、もしも俺が佐伯目当てだとしたら、とりあえず入部だけはするもん……。黙っていれば、美少女だし……。


「部員は今何人いるんだ?」

「現在は五名ですわね」

「へぇ、結構いるんだな」

「ふふ。そうでしょう? わたくし、榊、橘さん、佐伯さん、真島さんの五名ですわよ!」

「勝手にカウントするんじゃない」

「お、お願いしますわ! 部として認めてもらうには、五人必要なんですのよ! 部活への参加は自由ですわ! いつでもだらだらとここでお嬢様についての研究をしていいのですよ!」


 ……わりと、本気でお願いしてきた佐伯の表情。

 それに俺は弱い。なんかこう、本気でお願いされるとどうにかしてやりたい気持ちになってきてしまう。


「……まあ、別に名前くらいなら貸してもいいんじゃないか?」

「……優しいですね、修二は。ふーん」


 むすーっと柚香が頬を膨らませてこちらを見ていた時だった。

 七瀬がすっと片手をあげた。


「……修二が入るなら、私も入ってもいいぞ?」

「本当ですの!?」

「……ああ。その代わり、修二が来ない日は私も行かないからな」

「別に構いませんわよ! ありがとうございますわ!」


 いや構え構え! 明らか七瀬の目的は俺じゃないか。

 嬉しそうな様子で佐伯は七瀬の手を取り、ぶんぶんと上下に振る。


「しゅ、修二が入るならと言っているだろう」

「ということで……真島さん。お願いしますわ」


 両手を合わせ、涙目で訴えかけてくる。

 ……ああ、くそ。


「……とりあえず、入部はするぞ。ただ、柚香のボディガードがあるから、ほとんど顔は出せないかもしれないけどな」

「真島さん……! あなたも神ですわ! それで構いませんわよ! あなたも今日からお嬢様ですわ!」

「その称号はいらん」

「がぬーん!」


 佐伯が肩を落としている中、俺は柚香は彼女を見る。


「柚香はどうする?」


 柚香は一瞬の躊躇の後、少し考え込んだが、最終的に微笑んで答えた。


「修二が入るなら、私も参加しましょうか」


 その俺基準やめてほしい。俺への負荷が高まるから。


「やりましたわ! ありがとうございますわ! 早速歓迎パーティーやりますわよ! どうぞどうぞ、座ってくださいまし!」


 佐伯は上機嫌で小さく跳ねるように喜んだ。これでようやく部として成立するんだもんな。

 とても楽しそうにしている佐伯を見ていると、まあ入部して良かったとは思っている。


 彼女たちを見ていると……レティシアたちを思い出す。

 ……レティシアたちも、きっと今頃は佐伯のように自分のやりたいことを見つけ、自分たちの人生を歩んでいるよな。

 俺としては、そういった未来のある子たちの背中を押してやりたかった。



 そんなこんなで、みんなでテーブルに集まり、お菓子を食べることになった。

 佐伯は嬉しそうに部室の棚からお菓子を取り出し、榊が飲み物の準備をしていく。ティーカップにコーラを注いでいる姿が、妙にシュールだ。


「ありがとうございますわね、榊。三人はどうしますの?」


 部屋には電気ポットもあり、ぶっちゃけ言えば何でも用意してくれそうだ。

 ただまあ、榊の仕事を増やさせるのも悪い。


「俺は同じものでいいぞ。……コップがあるならそっちで」

「私も、コーラで大丈夫ですよ」

「私もだ」


 真お嬢様部の部名を変えた方がいいのではないかという程に皆が庶民派だ。

 というわけで、俺のはコップで。残り三名のはティーカップに注がれていった。

 そして、佐伯は慣れた様子でポテトチップスの袋を開けると、テーブルに置いた。榊が、箸置きと準備し、丁寧に割り箸を置いていってくれた。


「普段はこんな感じですわね。漫画やお菓子を楽しんでいますのよ」

「なるほどな……漫画ってのはあっちにあるものか?」

「ええ、そうですわ。本で読む場合はこちらに。電子で読む場合はこちらのタブレットですわね。漫画以外にも、小説はもちろん。海外の論文などなど、ありとあらゆるデータが入っている特別性ですので、どうぞ自由に見てくださいまし」

「……すげぇな」

 

 俺が軽く頷くと、佐伯は誇らしげに胸を張る。

 うん、大きい。いや、そんなじろっと睨んでこないで、柚香、七瀬。

 異世界での経験でな……動くものについつい注意を払っちゃうだけなんだから。他意はないよ?

 タブレットを少し見せてもらったが、そこらの漫画喫茶に行くよりも、ここに来た方が断然時間を潰せそうなほどに充実している。


「そういえば、真島さんは漫画とか読みますの?」

「俺は結構色々読むな」


 ……読んでいた、というのが正しいか。

 すでに四十歳まで日本で生活していた俺としては、今の時代に発売している有名な漫画は目にしたことがあったので、結末はしっちゃっているものが多いんだけど。

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