第23話
俺も軽く自己紹介をしていると、俺たちの席に店員がやってくる。
俺たちはそこで料理を注文していく。何やら、聞いたことのないようなメニューから、庶民が良く食べていそうなメニューまで幅広く用意されている。
適当に注文してから、俺は柚香に問いかけた。
「……カフェテリアで、店員がいるんだな」
「彼女らは使用人科の生徒ですからね」
「使用人科なんてあったのか?」
一般向けの学科があるのは聞いていたけどな。
「はい。将来、使用人などとして働きたい人たちを育成していますよ。メイド、執事志望の人たちがいますし……メイも十年前に卒業していますよ」
「……なのに再入学する気だったのか」
『何か言いたそうですね?』、というメイの幻聴が聞こえたような気がする。いやいや、きっと気のせいだ。
「真島さんでしたわね。あなた、ボディガードとしての実力はどのくらいありますの?」
「どのくらいって……どう表現すればいいんだ?」
異世界ならば、冒険者にはランクがあったのでそれを伝えれば良かったが、ここではそんなものない。
一応、俺はSランク冒険者だったので、履歴書に載せられるアピールポイントではあると思う。
病院の受診を勧められそうだが。困っていた俺の代わりに、柚香が答える。
「かなり強いですよ? この前は私が誘拐されそうなときに助けてくれましたし、今朝もナイフを持った相手をサクっと倒してくれたんですよ?」
「すんげぇですわね! 見た目は普通の男子高校生ですのに、人は見かけによらないもんなんですわね」
「ふふ、榊さんは見た目からインパクトがありますからね」
「そうでしょう?」
少しばかり誇らしげに胸を張る佐伯。俺も、彼のことは気になっていた。
……かなり、できる人なのは確かなんだろう。今こうして向かい合っていても、まるで隙はないし。
「榊は、どこかの戦場帰りかって感じだもんな」
「猫と、戯れてたら、やられた……」
「……そ、そうか」
その片目に入った縦の線……まさか猫に引っかかれたものなんだろうか?
大きな体をしゅんと小さくしている。……も、もしかしたら榊もちょっとズレているのかも……いやいや、せっかくできた同じ立場の友人にそんなことを考えるのは失礼だろう。
そんなこんなで話をしていると、食事が運ばれてくる。
「カツ丼、カツ丼、ですわ!」
嬉しそうに目を輝かせながら、がつがつと佐伯が食事を始めていく。
……色んなお嬢様がいるんだな。
俺は、七瀬と佐伯を見て、小さく息を吐く。
……これから、こんな人たちとの関わりが増えていくんだよな。
あれ? ボディガードめっちゃ大変じゃね?
放課後。
色々あったけど、一日は無事に過ぎていった。俺たちは教室から出て、家に帰る準備をしようとしていた時だった。
近くの席にいた七瀬が、ぶつぶつと口を開いていた。
「修二? ……今は柚香の家で暮らしているのか?」
「ああ、そうだ」
「……それはつまり、家でも一緒というわけで……同居、同衾、新婚生活……子育て!?」
どこまで発想が飛躍してんだ。
七瀬がじろりと柚香を睨んでいる。否定してやれ、柚香。
柚香はにこりと意味深に微笑み、それから俺の腕をそっと掴んでくる。
いやそれは完全に挑発である。周囲のクラスメートたちも、俺たちの関係を楽しむかのように声をあげている。
まったく……この人たち全員俺たちで、というか七瀬で遊んでやがる。
そうすると、七瀬はその場で激しく頭を前後に動かす。
まるで何かの動物の威嚇のようにも見える。あるいは子どもが癇癪を起しているかのよう。
「それでは、修二。家に帰りましょうか」
「そうだな」
柚香が上機嫌な様子で席を立ったところで、教室へと一人の女性がやってきた。
「橘さん、佐伯さん、真島さん! 遊びに来ましたわ! まだ帰りませんわよね!?」
その声は――佐伯澪だ。
彼女は明るい声とともにドリルのような髪を揺らしながら堂々と現れる。放課後だというのに、まだまだテンション高めだ。
柚香は笑顔とともに首を横に振った。
「いえ、今から帰るところですよ」
「そんなもったいないですわ! ぜひ、我が真お嬢様部に足を運んでくださいまし!」
真お嬢様部? 聞きなれない部活動名に俺は眉をひそめた。
その部、誰が作ったのかなんて、聞くまでもないだろう。
「……もしかして、部長さん?」
俺の言葉に、佐伯は嬉しそうに胸を張る。
「ピンポンですわ! わたくしが作りましたのよ! やはり、わたくしの知的センスは隠しきれませんでしたわね!」
「……ああ、そう……だな」
そう答えるのが一番彼女への返答としては無難だろう。ほぼスルーするように伝えると、佐伯は俺の手を取ってくる。
「それでは、部活動の紹介もしたいので、ぜひとも部室でいらっしゃいませなのですわ」
「……私は興味ないな」
ふん、と七瀬は視線をそっぽに向けて拒否すると、佐伯は今にも泣きだしそうになる。
そんな顔を見た七瀬は「ふ、ふん!」と一瞬怯んだ様子を見せながら目を閉じていた。
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