第2話 異世界の勇者たち
朝の光が宿の窓から差し込んでいた。
いつも通りの朝。
そして……三人にとって最後の朝。
そんな中で、レティシアはゆっくりと目を覚ました。
薄いシーツに包まれた体を起こしながら、ぼんやりと昨夜のことを思い出す。
「……」
体が重い。異様に、眠っていた気がする。そう思ったレティシアは外の太陽を見て、驚いた。
すでに、太陽の位置が昼近くになっていたこと。
そして、部屋にシュウジがいないことにも気づき、頭をかく。
「シュウジ……あいつ、なんであたしたち起こしてないのよまったく」
いつも寝坊してばかりの修二が真っ先に起きていたことに驚きつつ、レティシアはベッドから降りた。
その声に気づいたのか、同じ部屋にいたリアンナとフェリスも目を覚ます。
「……おはよう。あれ? シュウジは?」
リアンナがベッドの上で軽く伸びをしながら、周囲を見渡した。
その時、レティシアはテーブルの上に一枚の手紙が置かれているのを見つけた。
その上には、修二の汚い字が書かれており、レティシアは表現しがたい嫌な悪寒を覚えた。
「……これ、何?」
テーブルには手紙が三枚、整然と並べられていた。全てが同じ封筒に包まれ、レティシアたちそれぞれの名前が書かれている。
「手紙でしょうか? シュウジ様の文字は相変わらず特徴的……ですね」
フェリスが苦笑しながら手紙をとる。
レティシアも、自分宛の手紙を手に取った。三人は同時にその封を切った。
手紙の中身は、あまりにも簡潔なものだった。
『ちょっと魔界の門破壊しにいってみる。ダメだったらごめん。破壊できてたら、三人はこれから自由に生きてくれ。そんじゃ!』
レティシアはそのあまりにも軽すぎる内容に、思わず声を上げる。
「……何よ、これ……何よこれ!」
「……レティシア。シュウジが、魔界の門の破壊にいく、って」
「私のものも、そうです。シュウジ様が一人で……!」
「あたしのも、よ!」
レティシアが手紙を握り締め、声を張り上げた。
「勝手に……一人で行くなんて、何考えてるのよ、シュウジ!」
「落ち着いて、レティシア。……今は、一刻も早く行って、シュウジを、止めないと」
リアンナの言葉に、レティシアたちは頷き、すぐに宿を飛び出した。
三人は馬に乗る。乗馬ができないフェリスは、いつものようにリアンナの後ろへと乗っていた。
三人は最高速で馬を走らせ、魔界の門へと向かう。修二が一人で門へと入る前に、止めるために。
そんな中、リアンナの服をぎゅっと掴んだフェリスが、申し訳なさそうに声を上げる。
「フェリスのせいで、ございます。フェリス……がシュウジ様に……死にたくないと話したせいで、シュウジ様がこんな無茶を――」
リアンナの後ろに乗るフェリスの声は、どこか悲しげだった。
リアンナの背中にしがみつきながら、申し訳なさそうにうつむいている。
「そんなことないわよ!」
レティシアが強く言い放つ。それから、ぎゅっと唇を噛んだ。
「あたしだって……言っちゃったもん。死にたくないって……だから、あんたのせいじゃ、ないわよ」
「……それは、私も。私も……死ぬ覚悟をして旅に出たのに……みんなで一緒に旅をして、それが……楽しくて……シュウジに、話しちゃって……」
旅の中で、覚悟が揺らぎ、相談をしてしまった。
だからこそ、修二が無茶なことをしてしまったと……皆が自責の念にかられていた。
そんな時だった。レティシアが声を張り上げた。
「見えた、魔界の門よ!」
遠くからでも見える巨大な門を発見した三人は、すぐに馬から飛び降りて走り出す。
魔界の門へとたどり着き、そこにまだ門が存在していたことに安堵する。
「シュウジ……!」
旅の中で、好きになった人の名前を期待するように叫びながら魔界の門の入り口へと向かう。
しかし、そこに修二の姿はない。
「シュウジ……どこ」
「シュウジ様……! いるのでしたら、お願いします。出てきてください」
レティシアたちが声を上げ、魔界の門へと手を伸ばした瞬間だった。
「魔界の門が崩れるわ……!」
目の前で――魔界の門はゆっくりと崩れ落ちていった。
轟音と共に、禍々しい闇の力が消滅していく。
そして、門は完全に崩れ去った。
だが、そこに修二の姿はなかった。
それが意味することは、ただ一つしかない。レティシアたちは、ある一つの考えに至り、そして――。
「……なんでよ」
レティシアが膝をつき、地面に拳を打ちつけた。
「なんで、あんた一人でこんなことしたのよ……!!」
何度も、何度も地面に拳を叩きつける。
「ごめん、なさい。私が……シュウジに、あんなこと、相談しちゃったから」
「……それは、違います。私が、私が……悪いんです。死にたくない、と言ってしまったから。私の責任、なんです」
それぞれが、それぞれの想いを口にしながら、こらえていた涙をこぼしていく。
世界にあった、魔界の門による脅威。
それらは、見事に払われた。
この世界の人々にとって、喜ばしいことであるはずだったが……レティシアたちの心は沈んだままだった。
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