生贄の勇者たちを命賭けで助け、日本に帰還しました。異世界の勇者たちが病んでるみたいです
木嶋隆太
第1話
少しだけ、自分の過去を振り返ろうか。
中学卒業のその日。俺の両親の借金が発覚。
高校入学のためのお金を準備できず、俺は中卒が確定した。
それから就活をしたが、ちょうど不景気になり、就職先は見つからず、正社員になれてもブラック企業で体調を崩してしまい……そんな風にして気づけば四十になっていた俺が職場へと向かおうとした時だった。
俺は見知らぬ大地に立っていた。あの時はビビったね。
見たことのない建物の中、見たことのない人たちに囲まれ、
「勇者の導き手の召喚に、成功しました……!」
よくは分からなかったが、俺は勇者の導き手として召喚されたらしい。
異世界召喚に、俺はそれはもう小躍りするほどに喜んだね。だって、貧乏だった俺にとっての無料の暇つぶしの娯楽だったからだ。
それはもう毎日、色々なジャンルの作品を擦り切れるほどに読んでいたので、異世界召喚に喜んでいた。
なのだが、問題はそこからだ。
俺は勇者ではないらしい。この世界にいる、三人の勇者たちを導く、勇者の導き手として召喚されたんだと。
俺の役目は、十五歳の少女と呼べるような三人の勇者を、魔界の門まで導くことが仕事なんだそうだ。
詳しいこと聞かされなかったが、まあ日本での生活に比べれば全然マシだったので、特に深い事情は理解しないまま、三人の勇者との旅を開始した。
魔界の門までの旅は、それなりに苦労した。
勇者の使命に燃える三人と俺の間には明らかに温度差があったのだが、旅を続けていくうちに段々と互いのことを理解していくようになっていった。
レティシア――エルフの姫で、いつも自信満々で強気な態度を崩さなかった子。
『ほんと……シュウジはあたしがいないと何もできないんだから♪』
パーティーのリーダーとして気を張りすぎて体調を崩してしまった彼女を支えていたら、なんかやたらと懐いてきた面倒な奴。
リアンナ――ドラゴニュートの姫で、強くて優雅な子。
『シュウジ……大好き』
ドラゴニュート族の中で特に優れた力を持つため、周りに恐れられながら育った少女。
俺が普通の少女として扱っていたら、やたらと懐いてきた面倒な奴。
フェリス――アンドロイド族の姫で、ちょっとおバカで抜けたところのある真面目な子。
『シュウジ様。先ほどの戦闘でも頑張りましたので褒めてください。頭を撫でるのを要求します』
俺がやたらと褒めていたら、なんか懐いてきた面倒な奴。
そんな彼女たちとの……長かった旅も、もうすぐ終わる。
魔界の門を見張っているという最果ての街に到着した俺たちは、宿屋にて最後の夜を過ごしていた。
……よし、全員もう眠ってるな。
睡眠薬を、三人の夕食に混ぜたんだけど……ちゃんと聞いてよかった。
最後に三人の寝顔を見てから、俺は一人宿を出発した。
異世界に召喚され、五年の月日が経った。
俺の年齢はすでに四十五、彼女らも二十歳になった。
俺は勇者の導き手として、彼女たちを育て、今や彼女たちはそれぞれの分野で世界最強と呼ばれるまでの勇者へと成長した。
しかし……旅の途中で俺は、勇者たちの旅の終わりを知ってしまった。
――魔界の門を封じるには、三人の勇者の犠牲が必要だということ。
この世界は、ふざけている。
数年に一度、勇者を選定し、その子たちの犠牲で成り立っている世界だ。
レティシアも、リアンナも、フェリスもまだ、死にたくないと、本音を語ってくれることもあった。
……そんな彼女たちの想いを聞いて、俺は――魔界の門を破壊しようと考えていた。
作戦はあった。ただ、その代わりに俺が死ぬかもしれない危険性もある。
まあでも……俺なんてもう四十五歳のおっさんだからな。
元の世界に戻れたところで、別に待っている人がいるわけでもない。また大変な生活に逆戻りするくらいなら、あいつら三人を救うために使ったほうが有意義じゃないだろうか?
「もともと、こんな自己犠牲に溢れたような人間じゃなかったんだけどな」
……街の外へと馬を走らなせながら、一人愚痴をこぼす。
魔界の門が見えてきた。
すぐに俺は馬から降り、俺は魔界の門の前にたった。
巨大な門からは、禍々しい魔力が感じられる。
魔界の門は、奥に潜む魔族たちの手によって数年に一度開いてしまうそうだ。
だが、勇者を捧げることでその門を封じることができるらしい。
つまり、俺があの面倒な三人の勇者たちを守るためにやることは一つ。
――中にいる魔族を殲滅すること。
中にいる魔族たちが外に出ないよう、勇者の身を差し出すことでこの世界は成り立っている。
つまり、生贄を要求している魔族どもを倒せばいいってこと。
そうすれば、三人は救われる。
……それが俺のこの旅のハッピーエンドだ。
勇者の導き手として、『勇者』の力を発動した俺は……魔界の門を開いて中へと入る。
暗い闇の世界が広がっていた。だが、その先には――不気味な魔力がいくつも蠢いている。
「……ききき」
どこかで鳴き声が聞こえた瞬間、魔族がこちらへと迫ってきた。
俺に向かってきた魔族の手首を、掴んだ。
『リアンナ』が持つ怪力を、勇者の導き手として、貸してもらった。
「さて、こっからが俺の本番だな……」
数え切れない魔族たちが蠢き、俺へと襲いかかってくる。
巨大な竜のような魔族、影のように定まらない形を持った悪霊、牙を剥き出しにして襲いかかる獣のような魔族――どいつもこいつも、容赦なく俺を狙ってくる。
「さっさとこいよ。全員叩きのめしてやるよ」
迎え撃つために拳を構え、迫る魔物たちを潰していく。
勇者の導き手の力は、勇者たちより少し強い力を使うことができるというもの。
それによって、勇者に力の使い方を示すことが勇者の導き手の役目だ。
だから、俺は――言うなれば、勇者の上位互換だ。それでも、これまで誰一人として召喚された奴らが勇者の代わりに魔族と戦おうとしたものはいなかった。
その理由は簡単だ。俺たちは、勇者を魔界の門に連れてきた段階で、役目を終え、元の世界へと帰れるというわけだ。
過去に召喚された人たちにとっては、勇者は取るに足らない存在だったのだろう。
――それが、正しいことだとも俺は分かっている。
『……ねぇ、シュウジ。あたし、あんたでいいから……ううん。あんたがいいから、あたしと一夜だけ、一緒に過ごしてくれない?』
『シュウジ。……私の最初で最後の恋人になってほしい』
『シュウジ様。私の体では満足できないかもしれませんが、私の初めてをあなたに捧げたいです』
これが……三人の少女たちが俺に言ったことなんだぞ?
身近に俺くらいしか男がいなかったから勘違いして――。
普通に生きていれば、きっともっとたくさんの良い出会いがあるかもしれないのに、俺なんかに告白してきて――。
俺は彼女らが、自由に生きて、自由に恋をして、自由に死ねるように、してやりたい。
そのためなら、この命くらい――いくらでも賭けてやれる。
閃光が走り、血飛沫が上がるが、敵の数は減らない。
だが、俺は立ち止まらない。この場で倒れるわけにはいかない。
仲間たちのために、俺はここで魔族を殲滅し、全てを破壊する。
「クソ……キリがないな……」
体の傷が増えていく。……さすがに、厳しい戦いだ。
それでも、倒れるつもりはない。俺は拳を構え直し、魔族を殲滅するために狙いをつける。
そうして、全身から力を振り絞ろうとした瞬間。
――異変が起きた。
俺の力に呼応するように、魔族が――勇者の力を発動した。
……こいつら、まさか勇者を喰らって、その力を奪っているのか?
俺は勇者の力を使った魔族の首を掴み、へし折った。
そして、声を張り上げる。
魔族たちが持つ力が、勇者の力であるならば――。
「……勇者たち。頼む、俺の守りたい大切な勇者たちのために……お前たちの力を貸してくれ!」
叫びながら俺は、先ほど使われた光の剣を――発動した。
俺の考えに賛同してくれたのかどうかは分からない。
だが――過去の勇者たちが、背中を押してくれたような気がする。
まだ、戦える。
ありがとう……皆。
これまでに、食われてきてしまった勇者たちに感謝をしながら、俺はひたすらに拳を、魔法を、振るい続けた。
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