第15話


 すぐに着替えを行う。

 すでに俺のサイズにぴったりの衣服が用意されているのは、さすが橘家と言ったところか。

 着替えを終えた俺はすぐに橘と共に食堂へと移動した。


 この屋敷の規模だから当然っちゃ当然なのかもしれんが、食堂は広く、豪華だった。異世界でも王族級の家でしか見たことのないような広さで、眩しいほどに白く長いテーブルクロスがしかれたテーブル。


「何人家族なんだ?」

「え? 六人かな。お父さん、お母さん、それと兄が三人で私だよ」

「……こんな長いテーブルの必要あるのか?」

「ないよね。皆で横になれるくらいあるもんね」


 ほんとな。

 俺たちが席につくと、すぐに料理が運ばれてくる。

 豪勢な食事、かと思ったが意外と庶民的な料理だ。


「料理は普通で良かったよ」


 素材は最高級なのかもしれんが。


「そんなにたくさん用意されても食べられないからね。太っちゃうしね」


 ……まあ彼女くらいの年齢だと気にするよな。


「メイは一緒に食べないんですか?」


 俺は彼女が端の方で待機していたので、尋ねる。メイが答えるより先に、柚香が少し口を尖らせた。


「使用人は一緒に食べないんだよね。私は気にしないんだけど」

「申し訳ありませんが、私は遠慮させていただきます。お嬢様のお世話を最優先に考えておりますので」

「……だ、そうです」


 むすっと橘がこちらをみてくる。一緒に食べたそうである。


「主の求めることをするのが使用人の仕事じゃないのか?」

「使用人として、主から一歩引くのも大事なんです」


 こりゃあ、話は平行線だな。

 特にテーブルマナーなどを求められるということもないようで、俺たちは普通に食事を進めていく。

 そんなときだった。橘がこちらをみてきた。


「そういえば、これからのことなんだけど、修二には私と同じ学園に通ってもらうことになるんだけど、そのために編入試験を受けてもらう必要があるんだよね」

「編入試験? そんな急に受けられるのか?」

「私たちが通ってる聖蘭皇華学園(せいらんこうかがくえん)はちょっと特別だからね。今回みたいに付き人とかが編入することも珍しくないから試験自体はすぐに受けられるんだよ」

「そうなのか……ていうか、聖蘭皇華学園に通ってたんだな」


 俺も一度は聞いたことのある金持ちたちが通うといわれていた学校だ。

 広大な敷地の学校で、様々な施設が揃っているという噂の場所だ。

 恐らくだがセキュリティもしっかりしているので、学園内であればまず危険に晒されることはないだろう。

 つまり、俺の仕事ってこの前のようなお出かけや、登下校の時くらいのものなのになるんだろうな。

 基本、暇では?


「うん。これからは修二も通うことになるからね」

「……もちろん、合格したらの話です。編入試験の難易度はかなり高いです。真島様の中学時代の成績、を見せてもらいましたが……今のままでは厳しいですが……勉強の方にあの瞬間記憶は使えないのでしょうか?」


 ……ああ、中学時代の成績も知られてるよな。

 俺は別に頭は良くも悪くもなかった。なので、今のままだと不合格は確実だ。

 いい感じの言い訳で誤魔化しておこう。


「まあ、成績は……家のこととか色々あってさ、テストに集中できなかったんですよ。あの瞬間記憶って結構体力使っちゃうんで」

「ってことは、今は大丈夫だね? 私がついてるからね」


 とんと胸を叩く橘。

 橘がついているとなんだかそれはそれで疲れそうではある。


「こちらで過去問や対策の問題集は手配済みです。ですので、全ての内容を丸暗記するだけでも、合格ラインは超えるかと思います」

「……まあ、それなら大丈夫ですよ」


 全部のページを見る時間さえくれれば、なんなら今から試験をしても問題ないだろう。

 そんなことを考えていると、橘が笑みを浮かべた。


「頑張ってね、修二」

「おう……了解だ」


 昨日ああいったわけだしな。

 彼女の期待に応えられるように頑張らないとな。




 編入試験を受けた次の日。すぐに試験結果が送られてきた。

 ……何もかもが早い。

 結果としては、無事合格だ。

 仕事を引き受けるといったのに、これで落ちていたら恥ずかしいからな。


「ちょうどゴールデンウィークも終わるし、完璧なタイミングだね」

「……だな」


 これで俺も、一ヵ月遅れではあるが高校デビューだ。

 ……ずっと行きたかった高校に、まさかこのような形でいけるとはな。

 ちょっとばかり、俺の考えていた高校生活とは違うけど。


「真島様。今後の登校に関してですが……柚香様からの提案で、学園近くまで送迎してから徒歩での登校をしてみたいそうです」

「そうなのか?」

「うん。今まではどこで誰に狙われるか分からなかったから結構止められてたんだけど、私も普通に登校してみたいんだもん。普通の高校生って感じがしないかな?」

「……まあ、そうだな」


 なるほど。俺としても、そんな風景を思い浮かべ、少し彼女の気持ちが分かった。

 男女が制服姿でともに登校をする。

 うん、これは青春の香りがするな。


「ただ、真島様。それに合わせて、少し相談がございます」

「なんですか?」

「ちょっとだけ殺し屋と戦ってほしいそうです」

「何に合わせての相談なんですか?」


 まったく会話が繋がってないと思うんですけど?

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