第9話 フェリスの計画
レティシアと別れ、リステノ王国に帰還したフェリスは久しぶりに踏む大地を懐かしみつつも、寂しい心の穴を埋めるまでには至らなかった。
リステノ王国は、修二の暮らしていた日本に近い科学技術を持っていたが、それらはこの土地に由来したエネルギー由来のものであり、それを外部に持ち出すことはほとんどできなかった。
リステノ王国では、生まれた瞬間にすべての人間がアンドロイド改造手術を受けることになっていた。根本的には人間とそう変わらない種族だが、この国の人たちがアンドロイド族と呼ばれるようになったのは、それが所以だった。
フェリスは、広大な王宮の大広間にて家族たちに今回の事を報告すると、多くの人たちによって感謝されることになる。
『フェリス様! 我々の未来を救ってくださり、ありがとうございます!』
『フェリス様! あなたは歴代最高の勇者です!』
フェリスはそんな賛美の声を聞きながらも、やはり心の奥底ではもやもやとしたものが残っていた。
強い悲しみを覚えた時、アンドロイドとしての体にはそういった感情に干渉し、和らげる機能があった。
それは、鬱などや衝動的な自殺を抑えるためにつけられた機能であり、今日ももやもやとした暗い感情を覚えたときには、そのセーフティ機能が起動していた。
【――異常なまでの感情の高ぶりを検知しました。体に害を与える危険性があるため、一定の数値まで下がるように鎮静の魔力を体内に流し込みます】
そんな機械音声が響いたところで、フェリスはゆっくりと息を吐く。
それから、さらに機械音声は続く。
【――本日、五十六度目の高ぶりを感知しました。継続的な精神の不安定さは体の不調につながります。一度、カウンセリングを受けた方がよろしいかと思います】
「……分かっています。ですが、フェリスには一刻も早くやらなければならないことがあります」
フェリスには、あまり時間が残されていなかった。
あちこちから下心込みでの面会の問い合わせが来る中、フェリスはそれらを拒否し、研究室へと引きこもっていた。
修二が残したいくつかの遺品とともに、だ。
――魔界の門が破壊された後。
フェリスたちは真っ先に魔界の門近くの街にこのことを報告し、それからの行動についての相談をしていた。
その結果が、全員が一度帰還することになったのだが、その際、宿に残されていた修二の荷物は全員で分けて持って帰っていた。
その中の一つ。フェリスは修二の服を手に取っていた。
これには、修二の様々な魔力情報が残っていた。
これらの魔力情報を用いれば――修二を、作り出すことができるかもしれない。
フェリスが帰還の旅の途中、ひたすらに計算に計算を行い、導き出されたのはその結論だった。
だが、その再計算を行ったとき、再び機械音声が脳内に響いた。
【――生命を作り出す行為は禁止されています。ただちに、計算を中断し、先ほどの計算結果を破棄します】
「残してください」
【――残すことは不可能です。計算結果を破棄します。今回が最終通告となります。再び、異常な感情の高ぶりを感知しました。これらの事実を情報局へと共有し、一度メンテナンスを――】
「フェリスは異常ではありません」
そう言った瞬間、フェリスの魔力が膨れ上がった。その暴力的なまでに荒れ狂った魔力が、フェリスの中にあった制御装置にぶつけられていく。
「フェリスは、異常ではありません。大好きだった人を失いました。その悲しみをなくすには、その原因を取り除く必要があります。つまりは、好きだった人を作り出すということです」
この国では、犯罪者などが異常に少ない。
だが、それでもゼロではない。
その原因は、先ほどのフェリスのように定期的に何かしらが原因で制御装置が機能しなくなるときがあるからだ。
多くの場合は、メンテナンスを怠ることなどが原因であるが、フェリスの場合はその強大な勇者の力で無理やりに制御装置を破壊した。
「……待っていて、くださいシュウジ様。必ず、もう一度あなたと再会してみせます」
フェリスは手に握った修二の服に顔を押し付け、その匂いに決意を固めながら、作業を開始する。
人間の体は様々な魔力情報の集合体だとされている。それは、異世界の人間であっても変わらないとフェリスは考えていた。
だから、修二が残したものに付着している魔力情報を使えば、修二を作り出せると思っていた。
――もちろん、そんなことを修二が決して喜ばないことは理解している。
だが、フェリスはそれでも止まるつもりはなかった。
もう一度、会えればそれでいい。
「……匂いを堪能している場合ではありません。急がないと、魔力情報はどんどん薄れていってしまいますね」
気づけば止まっていた手を再度動かし、フェリスはまずは修二のボディを作り始めていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます