2.
第30話
「あっ、汐里ちゃん♡」
語尾にハートマークを付けたような声で名前を呟いた樹に反応した俺は、その視線が向く窓の外へと視線を流す。
「次体育かな〜」
外には体操服に着替えて6月後半でいよいよ暑くなってきているのに、マスクをつけている出雲が一人ほかの女子と少し距離をとってグラウンドの隅に佇んでいる。
それを俺の前の席に座り熱い視線で見つめる樹と、どうでもよさそうに見向きもせずスマホをいじる浩介。
─────出雲となんやかんやで接点を持ってから数日。
あれ以来、特になんの出来事も起きてはいない。
変わったことと言えば、……俺が樹の発する出雲汐里の名前に多少なりとも反応するようになった事くらいで…。
「かわい〜。体操服でもモデル並みのオーラ出ちゃってるよ」
にこにこと花でも飛ばしそうな樹の目に映る女は相変わらずに立っているだけで可愛いらしく。
まあ、この前は確かに可愛いと思ったけど…。
それは出雲の意外な一面を見たってだけで……、だからどうっていうわけでもねえはずなのに、樹が汐里ちゃん汐里ちゃんうるさいせいか最近俺まで出雲汐里をよく見かけるようになっていて。
「……なあ」
「んぁ?なんだよ」
「あいつって、なんでいつもひとりでいんの?」
なんとなく思ったことを口にすると、前の席に座っていた樹が数秒考えてから、俺に視線を向ける。
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