第20話

心の中で出雲汐里に文句を付けていると、ボソッと黙り込んでいたはずの出雲汐里が何かを呟いた声が微かに聞こえてきた。



「……」


「……ない」


ない?



「…なに、」



ボソボソと呟かれた言葉がよく聞こえず、聞き直そうと俺が口を開くと教室の入り口にいた女はズカズカと近づいてきて。



「はっ?ちょっ…」



俺の向かいまでくると、机を挟んだ反対側で立ち止まり、驚いて若干後ろへ体を引いた俺に構うことなくプリントの山をバンっと勢いよく片手で叩いた。



「ないから!」


「は、…はっ?」


「付き合ってない!」



つきあってない?



勢いに呑まれて訝しげに目の前まできた出雲汐里を見ていると、その学校一美しいと称された顔は近くで見ると確かに一層美しい。



でも、……なんつーか、よく分かった。



容姿がいい女の不機嫌な顔ってのは、近くで見るとかなりこえー…。




「なんの話し…」


「だからっ、おにっ…佐原先生と、わたし!付き合ってないからっ!」



佐原…………。



聞き直した俺にズバッと勢いのままそう言った出雲汐里のひと言で、俺はようやくこの前の……あの資料室での出来事を思い出した。

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