第23話

本当のとこなら、ここへ住む住人を見かけたらわたしは必ず挨拶をしている。




挨拶ってのは、人と人の間での一番最初に見える『人間性』だ。




関心がないのか、何でもあまりとやかく言わない父親は、幼い頃からこれだけはわたしに言って聞かせた。



母親のように口煩くなんでもかんでも言われていたら、これは聞かなかったかもしれない。




でも、父親が唯一わたしに課すルールだったから、それは習慣づけられたのだ。



だから、挨拶という行動はわたしの中では癖のようなもので、もっと言えば義務のようなものですらあった。




それなのに、いまこの瞬間は、そんなことすら忘れていた。



信じられない程の不良よりも斜め後ろあたりに立って、その存在を凝視した。




小さなことを気にする母親の言っていたことは、大袈裟でもなく、本気でそういう見た目の男だったのだ。

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