第5話

「そんな調子で大丈夫なの?去年だって、練習サボって本番で何回もミスタッチしてたじゃない」




腕を組む母親が思い出すように眉間に皺を寄せながらそう言ってくる。




去年って…。



それって今、関係あるの?



確かに去年のコンクールの演奏は酷かったと自分でも恥ずかしく思うくらいだけれど、わざわざそれって今言うほどのこと?




母親の中で塾のことは既にどうでもいいのか、苦い思い出の去年のピアノのコンクールのことまで言い出すので、渋々重い腰をあげる。




これ以上抵抗して、さらに文句を言われることの方がよっぽど面倒だし、気分も悪くなると察したから。



「分かったよ、もう。やります、やればいいんでしょ」




投げやりな返事をすると、それに対してもブツブツと文句を言っていた母親は、何かに文句を付けていないと気が済まないのだろうか。

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