第13話 物証発見機
奈々さんを恋愛判定機にかけた翌日、私はお茶の水教授に呼び出された。
私が教授室に入ると、そこには佐々木コーディネーターもいた。
お茶の水教授は、
「河村君、君のアイデアのおかげで、うちの研究室で開発したブレイン・マシン・インターフェースを使った機械で特許がとれたよ。そこでだが、この書類にサインしてくれないかね」
と言って、私に書類を見せた。
その書類には、「甲」やら「乙」やら、利害関係がどうのこうのということが書かれていたが、要するに河村雄介にアイデア料として、500万円支払うという書類であった。そこには、研究室に入る特許料は、5000万円ということも明記されていた。
しかしその書類の表題は、「物証発見機」となっていた。
「物証発見機ですか?」
私がそう言うと、佐々木コーディネーターは、
「君が作った『恋愛判定機』は、用途が限られるし、将来の心変わりや浮気までは見抜けないだろう。
その点、君が開発した機械を応用した『物証発見機』なら、口のかたい凶悪犯が隠したお金や遺体を発見できる。
また、警察がそういった機械を持っていると分かったら、犯罪の数が減るだろう。
これは大きな社会貢献になるよ」
どうやら佐々木コーディネーターは、私が金額のことで不平を言うのではないかと恐れているようで、さらに説明を続けようとした。
私は、
「分かりました、どこにサインしたらいいのでしょうか」
と言ってボールペンを握った。
お茶の水教授と佐々木コーディネーターは安堵の表情を見せた。お茶の水教授は、
「河村君のおかげで、『中洲産業大学』の田森教授や『すすきの産業大学』の敷島博士に先駆けて、ブレイン・マシン・インターフェースを実用化したことになるのだからね。河村君、本当に有難う」
と言って下さった。私をエンジニアとして育ててくれた教授にそう言われて、私は照れ笑いした。
実は、私はブレイン・マシン・インターフェースの本体そのものを作っている外資系の会社の日本支社に就職することが決まっていた。
日本中の県警がブレイン・マシン・インターフェースを購入することになれば、その売り上げは、とてつもなく大きくなる。また私の仕事も、今とあまり変わらないことをすればいいことになる。
「恋愛判定機」もとい、「物証発見機」の決め手になるアイデアは、私のおじいちゃんのアイデアだし、500万円あれば、親に負担をかけずに結婚式を挙げられる。
すべてが万々歳である。
残るは、「青い海の伝説」仕様の恋愛判定機を完成させて、奈々さんの本心を知るだけであった。
奈々さんが恋愛判定機に仕込んでいた音は、それほど多くなかった。
それは・・・彼と彼女がフェリーの旅に出るという楽しそうな会話、出航の汽笛、波の音、カモメの鳴き声、フェリーのエンジン音、(眠りに誘う快い船の振動)、突然起こる衝撃音、船内放送、乗客が逃げ惑う声と音、船内放送、まじかに聞こえる波の音、彼または彼女が「あそこに筏があるわ、これで助かるよ」という声・・・これらの音だけで、自分を含めた治験者の皆が皆、「タイタニック」の事故の夢を見るということが分かった。
(これくらいの音なら、すぐにでも用意できる)
私は、そう思った。
恋愛判定機を「青い海の伝説」仕様にするには、ドラマの筋書きを仕込むのは大変なので、手っ取り早いものにしなければならない。
私が考えた筋書きは・・・彼と彼女のデート、「この前、交番のポスターで見た、凶悪な指名手配犯によく似た人がいるよ」という彼または彼女の声、彼女が携帯で警察に通報する声、彼が指名手配犯を足止めするための会話、覆面パトが近づく音、サイレンを鳴らしたパトカーが近づく音、「早く確保、確保」と叫ぶ警官の声、指名手配犯が警官の拳銃をホルスターから取り出す音、指名手配犯が「このやろー」と言って二人に向けて一発だけ弾を発射するバンという音、犯人が確保される音、救急車のサイレン
私は、恋愛判定機にこれだけの音を仕込んだ。
奈々さんは、
「私は、二度と恋愛判定機にかからない」
と言ったので、協力者を探さなければならなかった。
私は前の治験で気になっていたC男とD子にその協力を依頼した。二人は治験に快く応じてくれた。
D子に治験者になってもらい、機械の操作はC男に協力してもらった。
その治験結果の映像は、次のようなものであった。
大がらなC男の首に飛びつく形で、D子が飛んでくる凶弾の
これで、「タイタニック」仕様の機械でD子が筏に上がったのは、やはり刷り込み効果のせいだということが明らかになった。
(恋愛には、それぞれドラマがあるものだ)
私は、そう思った。
どうすれば「青い海の伝説」仕様の機械に奈々さんをかけられるか?・・・それが一番の問題であった。
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