第10話 恋愛判定機の完成
奈々さんの笑顔から試作機がうまくいったことは分かっていたが、私はパソコンに録画された『私が見た夢』を再生した。
夢の中で私は、奈々さんと若松に行く途中の国道3号線で、逆走してきたお年寄りが運転する車を避けきれず、正面衝突していた。
そして実際の私は、その夢に驚いて飛び起きたのである。
「まだまだ、改良しないといけないな」
私はそう言って、奈々さんと問題点を洗い出した。
すぐに改善しなければならないのは、次の2点であった。
1.衝撃的な夢を見ても、目覚めないようにする。
2.その夢の後に楽しい夢を見させて、前の夢を忘れさせる。
これにはどちらもアドレナリンが関係していた。
「アドレナリンは副腎からしか分泌されず、脳のどこを刺激しても出ないわ」
奈々さんがそう言うので、私は、
「いっそのこと、リクライニングチェアーに腎臓を刺激する機械を付けるか」
「なに馬鹿なこと言ってるの! 身長や肥満度が同じならリクライニングチェアーに付ける機械の位置は同じでいいけど、身長や体重は人によって違うじゃない」
奈々さんはそう言った後で、
「そうだ、視床下部を刺激してGABA(γ-アミノ酪酸)を出させれば、すぐには目覚めなくなるわ。楽しい夢を見させるには、やはりインターフェロンを分泌させるしかないわね」
「どちらも脳幹への刺激か」
私はそう言って、さっそくヘッドギアに改良を加えることにした。
一方、奈々さんには、映画「タイタニック」の海に投げ出された時の状況を再現するための「音集め」を依頼した。
それらがそろったのは、それから一週間後だった。
私は前回と同様に、奈々さんに立ち会ってもらって、ブレイン・マシン・インターフェースをセットした。
「船の揺れを再現するために、リクライニングチェアーが少し揺れるようにした?」
と奈々さんが聞くので、私は、
「それはバッチリだ」
と言って、Vサインを出した。
今回は、奈々さんにモニターを見ていてもらって、楽しい夢を見終わったら、すぐに起こしてもらうことにした。
私はヘッドギアをかぶり、リクライニングチェアーに座って、チェアーを水平に倒した。
快い目覚めであった。
少し覚えている夢の中で私は、奈々さんとの結婚式で私のおじいちゃんと奈々さんのおばあちゃんから祝福を受けていた。おじいちゃんの九州弁は、そのままだったけど・・・
録画を見る必要はなかったが、再生したその映像の中の私は、筏に乗っている奈々さんに『どんなことがあってもあきらめずに、僕の分まで生きるんだぞ』と言って、海の中に静かに沈んでいった。
その私の映像は熊本地震の時におじいちゃんがとった行動よりもかっこよかった。
私は奈々さんとハイタッチして、映像が録画されたパソコンを持って、お茶の水教授の部屋に行った。
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