第7話 意外なヒント
「おじいちゃんは熊本地震の時に、おばあちゃんの上に覆いかぶさったって聞いたけど、それは本当ですか?」
と私がおじいちゃんに聞くと、おじいちゃんは、
「それは、間違いなか」
と答えた。
「どうしてそんな、自分の命を投げ出してまで、おばあちゃんを守ろうとしたのですか?」
と私が聞くと、おじいちゃんは、
「わしは、おばあちゃんを守ろうとしたとじゃなかよ」
これは奈々さんが通訳してくれた。
『私は、おばあちゃんを守ろうとしたのではありません』
私は、「えっ?」と思った。そして、その他に何があるのだと思った。
しかし、おじいちゃんが次に語ったことは、後で考えると意外ではなく、道理が通ったものであった。
「熊本地震の二回目の震度七強は、そりゃすさまじいものじゃった。ベットから降るることもでけんで、運を天に任せるしかしょんなかかった。
家が左右に1メートル以上大きく揺れて、家のいたる所でバキバキと柱が折れ、壁が割るる音がした。
これは間違いなく家が倒れて、おじいちゃんとおばあちゃんは
死を覚悟した瞬間じゃった」
「家の下敷きになって死んだら、その後、どうなる?」
おじいちゃんがそう聞くので私は、
「それは、消防団や自衛隊の人たちが掘り出してくれるでしょう」
と答えた。
「そうじゃろう。あの激しい揺れば続いた時に、おじいちゃんは思ったとよ。
これは間違いなく死んで、おじいちゃんとおばあちゃんは潰れた家の
掘り出された時に、おばあちゃんがおじいちゃんの上に覆いかぶさって、おばあちゃんがわしを守って死んだ形で掘り出さるるなら、わしは親戚中の笑いものになる。
せめて死ぬ時くらいは、人にかっこよく死んだと思われたいものじゃ。
せやから、おじいちゃんはおばあちゃんの上に覆いかぶさって、おばあちゃんを守って死んだと思わるるようにしたとじゃ。
そぎゃん形で掘り出されたら、わしの親戚やおばあちゃんの親戚は、『あんなに自分かってな人だったけど、最後に一つだけいいことをしたのね』と思うじゃろ。
わしはそれを望んだだけじゃ。
運悪く、死ななかったけどな」
おじいちゃんのこの話を聞いて、私は、
(この人は「絶している」、すなわち、僕の想像をはるかに超えた人だ)
と思った。
「ところで、ブレイン・マシン・インターフェースば使うて、雄介はなんばしようとしとっと?」
奈々さんの通訳、『何をしようとしているのですか?』
おじいちゃんがそう聞くので、私はおじいちゃんに「恋愛判定機」 のことを少し詳しく説明した。するとおじいちゃんは、
「そげんやったら、デカプリオの『タイタニック』や韓国ドラマの『青い海の伝説』んごと、好きおうとう二人の内のどっちか一人しか助からんという設定にせないかんな。
冷たい海に投げ出された時は、そこにあるのは一人だけしか乗れん
私もそれには同意した。
すると奈々さんが、
「でも、そんな設定をするには・・・今の脳科学では、脳のどこにどんな刺激を与えればいいのか、まったく分かっていないわ」
と言った。
するとおじいちゃんは、
「レム期の睡眠じゃったら、
寝むっちょる人を起こさんくらいのこまかな音で、設定したい状況の音を聞かせたらどうかのう?
自動車事故なら、車のエンジンをかける音、スピードを出した時の風切り音、急ブ
レーキ、車が何かにぶつかってクラッシュする音、救急車が来る音、それを連続してレム睡眠期の耳に聞かせたらどげんなるかいな?」
と言った。
「おじいちゃん、ありがとう!」
私と奈々さんは、同時にそう叫んでいた。
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