第4話 九州旅行(その一)

 睡眠にはレム睡眠とノンレム睡眠があり、脳がまだ働いているのはレム睡眠期で、脳まで休む睡眠のことをノンレム睡眠といいます。人の睡眠では、レム睡眠とノンレム睡眠が交互に繰り返し起こっていると言われています。

 

 夢を見るのはレム睡眠の時だけだと考えられますが、少数ですが、ノンレム睡眠の時も夢を見るという学者もいます。

 私たちがやろうとしている夢判断は、ちゃんと頭で考えた行動を取ってもらうために、レム睡眠期に見る夢に限ります。


 私たちの研究室では睡眠中の脳波から、見ている夢を映像化できるブレイン・マシン・インターフェース機器を開発したのですが、楽しい夢を見せるにはニューロンから一種のインターフェロンに似た物質を出す部分を刺激すればいいのです。

 しかしながら、危機に遭遇する夢を見せるには、脳のどこをどのように刺激すればいいのか・・・それはまだ研究中です。


 熊本地震の時に身をていしておばあちゃんを助けたというおじいちゃんが、その時に何を考えていたのかを知りたくて、私はおじいちゃんが入っている糸島の老人ホームを訪れることにしました。また、糸島の「伊都の杜一丁目」に住んでいるおばあちゃんにも久しぶりに会いたくて、私は研究室に、「三日間の調査旅行に行く」と届けを出しました。


「ユウちゃん、九州に行くの? それなら私も行こうかしら」

 奈々さんがそう言うので、二人で九州に行くことにしました。

 私と奈々さんは、今では、「ユウちゃん」、「ナナさん」と呼び合う仲で、研究室のみんなからは、私が修士の学位を取って就職したら、二人は結婚するものだと思われていました。

 

 私の研究室のお茶の水教授は、

「婚前旅行か。いいネタを仕入れるために、一週間くらい行ってきなさい」

 と言って下さいました。

 教授がそう言ってくれたのは、私が提案した「恋愛判定機」を実用化したいという思いがあったからでした。

 ついでに私は、奈々さんのご両親やおばあちゃんにも会いたかったので、教授のお言葉に甘えて、調査旅行を一週間に延ばすことにしました。


「ユウちゃん、一緒に旅行するのは、久しぶりだね。ユウちゃんのご両親に会うために、鎌倉に行ったとき以来かな?」

 新幹線みずほのテーブルを出して、「銀だこ」のたこ焼きの箱を開けながら奈々さんがそう言いました。

 京阪大学がある新大阪から糸島までは、新幹線と地下鉄乗り入れのJR筑肥線を使えば、乗り換えは博多駅での一回だけで、3時間しかかかりません。

 

 新幹線の中で、奈々さんが、

「あなたの夢判断で使う『死ぬほどの危機』って、何にするつもり?」

 と言うので、私は、

「問題はそれだよな。あまり種類が多いと取り扱いが大変だし。とにかく愛する人を助けて、自分も生き残ったおじいちゃんの話を聞いてから決めよう」

「そうね。私もユウちゃんのおじいさんに会うのが楽しみだわ」

 

 奈々さんは、「銀だこ」のたこ焼きを一つ食べると、話を続けました。

「知ってる? これはお母さんから聞いた話だけど、ユウちゃんのおじいさんがまだ五十代の頃、テレビでリサイクルの話をしているユウちゅんのおじいさんをおばあちゃんが見て、『尚ちゃんのお兄さん、ご立派になられて。私の若い頃の男を見る目は間違ってなかったわ』って言ったそうよ。

 おばあちゃん、あなたのおじいちゃんと寝たわけでも何でもなく、単なる片思いだったんだけどね」

「僕のおじいちゃんは若い頃、とにかくもてたそうだからね。それが本当かどうかも聞いてみるつもりだよ」

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