第5話 お互いの『意外性』


最初の印象は


『強烈』


1時間一緒に過ごしての印象は


『宝の持ち腐れ』


店を出てからの印象は


『傲慢』






――瑠衣said



山下公園からずっとバイクは走り続けた。


一体どこまで行くんだろう・・・・。


運転している男はずっと無言だし。



こっちを見ることもない。



いい加減本当に帰りたいんだけど・・・・。



「ねぇ、何処行くの???」


信号で止まったと同時に聞いてみた。


男はやっと振り返って来て・・・・・。


「うっせーな!黙って座ってろよッ・・・・。」


うっ・・・・。


何なのコイツ・・・。


今後は絶対関わりたくないタイプッ!!!!




確かに見た目は・・・。



超が付くほど格好いい。


お洒落な髪型に・・・お洒落な服装。


身長も高くて・・・・。


バイクに乗って体を付けてるとすごくよくわかる・・・。


引き締まってる・・・鍛えてる体。



世の女たちはこんな男にいっぱい泣かされるんだろう。


でも私はそうはならない自信があるッ!!!


良い男は何もしなくても女が寄ってくる・・・イコール!!


気も利かないし使い物にならん!



挙句の果てには女遊び大好き!


これ私の勝手な定義。


ちょっと不細工くらいがちょうどいい。


良い男なんて・・・・。


格好いい男なんて!!!


危険な匂いしかしない。





横浜から1時間ほどバイクは走り続けた。


時間は22時半位。


いい加減トイレとか行きたいんですけど。



そう思った時・・・バイクがゆっくり止まって・・・・。


「着いた!!」


そう、一言言われた。


えっ????


男はバイクから降りて、まだ座ってる私の方を見て・・・・。


私のメットを外してくれた。


ここって・・・。




目を見開いて男の後ろの景色に見入った・・・・。


「ここ、・・・・仲間内しか知らねーから他に言うなよ・・・。」


そう言われて・・・私は何も返事をせずバイクを降りた。



だって・・・。



声が出なかったの。


声が出ないほど・・・・・。


綺麗だった。




随分高台まで来ていたのか・・・・。


私の眼下に広がるのは・・・・。


視界いっぱいに・・・・



湘南の・・・夜景。


江の島大橋のテールランプ・・・。


オレンジ色のライトが綺麗に光る海沿い・・・。


車やバイクが走る姿すら綺麗に見えて・・・・



月の明かりが海を照らした。


そして・・・かすかに聞こえる波の音。




「すご・・・・・」


私が口を両手で抑えてそう言うと・・・・・。


男は私の横に立ってタバコを吸った。


神奈川に住んでいたのに・・・・こんな場所があったなんて知らなかった。


私がその景色に見入ってる間、男は何も言ってこない・・・・。


終始・・・無言・・・・。



でも不思議・・・・。


さっきより・・・男の顔は・・・優しくなって・・・。


たまに私に笑いかけてくれるの・・・・。


・・・・・///////




どの位そこに居ただろう・・・。



「あっ!!もう0時過ぎたぜ?」


男が携帯を見て言った。


あ・・・。


もうそんな時間かッ・・・。



私が携帯を見てると・・・・


「送るッ!!約束だからなッ・・・・」


そう言いながらバイクの方に歩いて行く・・・・私は慌てて男を追いかけた。


確か・・・この人って、この辺に住んでるんだよねッ・・・


だとしたらまた横浜に行ってこっちに戻るなんて大変。




「いいっ!その辺のファミレスで降ろして!始発で帰るからッ・・・・。」


腕を掴みそう言うと・・・・・。


「はっ?!一人でファミレスでいるの?」


男はびっくりした顔でそう言った。



・・・・・・。


だって・・・。


「家この辺なんでしょ?・・・悪いしッ!!大丈夫ッ!結構馴れてるし」


昔、大輔と喧嘩して家を飛び出した時ファミレスで過ごしてたっけな・・・。


思い出すと胸が痛い。



すると・・・・。


男は私にメットをかぶせ・・・・。


私のメットのベルトを締めながら・・・。



「お前バカ?・・・あぶねーだろ??女一人でッ!!いーよッ!付き合うからッ!!」



・・・・・・。


この男・・・・謎なんだけど。


マジで紳士なのか・・・


ただ単に・・・・。


暇人なのか。




メットのベルトとをギュッと止め・・・私をバイクに座らせ、そのまま男もバイクに跨った。



何処行くの?



きっと大丈夫、その辺のファミレスよッ!!


彼は意外と紳士ッ!!何もされるわけない!



って・・・天使の言葉と・・・・。



え??ここまで来て何もないとかあると思ってる??

このままホテルに行くにきまってるじゃない!!

男はそういう生き物!やりたくてやりたくて仕方なーーーい!!



そんな生き物よッ!!!



って・・・


悪魔がささやく。



でもいいんじゃない??中々ないわよ!こんなイケメンとH出来るなんてさ~ッ




悪魔はまたささやいた!!


わわわわっ!!


思わず、首をブンブン振ってると・・・・・。



「何暴れてんだよッ・・・途中で落とすぞ!」


と、

運転しながら怒鳴られた。



暫くバイクは走り・・・・。




そのまま大通りに出たバイクは・・・


えっ・・・


私の視界に入ったのはキラキラ光るラブホテルッ・・・・。



「ぁあっ!!!!」


思わず声を上げると・・・・


そのままホテルの前をスルー!


到着したのはカラオケ。



「なんか期待させた???」


男はバカにするように笑いながら私のメットを外した。


うっ・・・・


「なっ・・・/////なによっ!!期待ってぇっ・・・」



私の言葉を最後まで聞かずさっさとカラオケへと行ってしまった。




ちょっ・・・・・


「待ってってばぁぁ!!!!」


・・・・・・・。


私達が案内されたのは小さな個室。



そーーーーして・・・・また無言。


飲み物をずびっと啜って・・・・・。


「お前歌えよっ!」


ぶっきらぼうに言って煙草を吸った。




え・・・・。




連れてきたのはアンタでしょッ!!!


「最近カラオケとか行ってないから歌えないよ!!」


ジュースをチュー―っと吸い込みのどを潤してると・・・・・。


「さーーーーって・・・何歌ってもらうかなーーー」


私の話を聞き流しながらデンモクで曲を選び出す男。




聞いてねーーしッ!


男はデンモクを手際よく操作し・・・・。


ゲゲッ・・・・



「何でその歌なのッ??普通のにしてよッ・・・」



私がそう言うと・・・・。


「ちゃんと歌えたら、お前のいう事何でも聞いてやるよ。」


・・・・・・。


なにそれ・・・。


久々スイッチが入る。


「何でも聞いてくれるの?」



私が言うと・・・男はマイクをオンにし、私に渡してきた。



「ここも奢ってやるし、いう事なんでも聞いてやるッ!約束なーーー!」



・・・・・・。




――湊said



何でこうなった?・・・・。


何故かさっき飲み会で知り合った女と一緒にカラオケに居る。



そして、俺はその女に意地悪をしてみた。


絶対歌えるはずがない・・・歌を・・・入れてやった。



何でその歌?


俺が・・・・。


一番好きな歌だから。


子供の頃、お袋が良く聞いていた歌だった。




曲が流れ出し女はマイクを口の方に持っていった。




「まぁ、無理すんなよッ!」


俺は途中で直ぐ中断できるようにデンモクを手に持ってそう言った・・・・。



すると・・・。



女は俺の顔を見て・・・・



笑った・・・。





え・・・・・。


Some say love it is a river

that drowns the tender reed


・・・・・・。


その歌は・・・・俺が一番好きな・・・・。



『The Rose』



絶対歌えねーって・・・・確信していたのに・・・。


歌えても発音が悪くて・・とか・・・・。


Some say love it is a razor

That leaves your soul to bleed


これ・・・・


本人より上手いんじゃ・・・・。


その女のヤバい歌唱力に全身鳥肌・・・・。


透き通るような声・・・・。



女の顔を・・・ずっと・・・・。


見てしまった。



頭が真っ白になって、俺の全てが女の方に向いてしまったその時・・・・・



俺の頭の中は、


子供の頃、お袋が一人でその曲を聴いていた景色を・・・思い返していた。





「ねぇ・・・」


・・・・・・。


「ねぇってばっ!」



女に腕を掴まれて俺は我に返った・・・・。


「あっ・・・・・」


やっと出た言葉が、


『あ』



「聞き惚れた?」


女はそう言って笑った。


・・・・・・。



ぶっちゃけ・・・何も反論できなかった。


何?


何この女・・・・。


何この・・・


歌唱力と発音の良さ。



そして、この・・・・惨敗な感じ。





その後、女はワインを頼み、


何かあったのッ????


ってくらい、キレッキレで歌いまくり。



マイクを全く離さず、


「ふっざけんなーーーーー!!!ばぁぁぁーーーーーか!!」



・・・・・・。


それって俺に言ってます??


女は、歌って歌って歌いまくってーーー・・・・・。



午前2時。



女は俺の太ももに頭を乗せ・・・・。


「お酒、・・ワイン・・・頼んでーーー・・・・。」



って・・・・。


いうほど飲んでないんだけど・・・・。


この量で、こんだけ酔えるってある意味すっげーな。


「もうやめとけよ、・・・・明日仕事じゃねーの?」


タバコに火をつけ言うと・・・・。


「もう辞めたしーーー・・新しい仕事月曜からだしーー・・。」


女は俺の太ももの上でくつろぎながら言った。



・・・・・。


って!!!


知らねーーーし!!この女の仕事事情。


あーーーあ、なんで俺がこの女の介抱しなきゃなんねーんだ・・・・。





先週、龍と太一が横浜でギャルをナンパ。


それは、龍と太一が・・・その前の日にある賭け事に負けたから!という罰ゲームだった。


後腐れ無いように、興味のない派手なギャルをナンパしたけど思いのほかギャルに気に入られてしまい・・・ご飯に行こうと誘われてしまい・・・。


面倒くさいから、ギャル以外を紹介しろと龍が無謀な事を言った。



そして今日、・・・飲み会があると言われて俺も参加。


行ってみるとその辺によく居そうないるギャル3人・・・と・・・・。



一人、雰囲気が全く違う・・・結構可愛い女が座ってた。



でも、蓋を開けてみると最悪。


結構可愛いからいっか!って軽く思っていたら、その女は酒にスッゴイ弱くて・・俺の膝枕でグダグダになって涎もたらしてる様な最悪な女。




俺もこの状況に飽きつつある。


カラオケなんか来ないで、さっさとホテルでも行きゃよかった。




タバコを吸いながら携帯を弄っていると・・・・。


「ねー・・・・。」


女が話しかけてきた。


「なんだよ、・・・寝てれば?」


・・・・・・。


俺がそう言うと女はスースー寝息を立てだした。


は?


マジで寝た?



思わず顔を覗き込むと、



「ね・・・お願い聞いてくれるって言ったよね・・・・。」


あ・・・・。


コイツ酔っててもしっかり覚えてやがった。


しかも寝てないんだ。



「なに?・・・なんかある?」


付き合って??・・・とかっ?


・・・・・・。


それはちょっと面倒くさい。





「・・・HOTEL・・・・行こーー・・・。」


・・・・・・・。




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