第12話 ロイドの秘密(3)
鑑定ひとつとっても、この世界には不思議が多い。この地の領主に目を付けられたのもあるし、いっそ旅に出るのもいいかもしれない。
そんなふうに考えていると、アーヤが顔を覗き込んできた。
「ロイドの幸運が見抜かれたのは、レベル自体が低いからかもしれないな」
「ああ、そうかも。僕、レベル一だし」
「そうなのか? だが以前に鑑定してもらった時より上がっている可能性もあるぞ」
「それはないよ。鑑定したのって家を追い出されたあとだし」
「ふむ、ならば……いや、待て。着の身着のまま追放されたロイドが、どうやって鑑定士に依頼したのだ」
もっともな疑問なので、僕はネックレスのもうひとつの秘密についても話す。
「な……!?」
よほどにショックな情報だったのか、アーヤが愕然とする。
「幸運を1000も増やすだけでなく、最高レベルの鑑定も使える……!? 完全な国宝級ものではないか……!」
「やっぱりそんな感じになっちゃうんだね、あはは……」
力なく笑ったあとで、一応代償についても説明しておく。
「代償とは言っても、ロイドがある程度好きに決められるのであれば、装備の条件と変わりあるまい」
アーヤが立ち止まり、腕を組んで考え込む。
「レベルが一から上がらないというのは厳しいが、望外な効果を得られるとなれば許容する者もいる。やはり呪いというよりは恩寵に近い」
「アーヤは迷宮で手に入る武器とか知ってるの?」
「話に聞いただけだが、誰が付与したのかもわからないので恩寵品と呼ばれ、一般に出回っているのとは別格の性能らしい」
「実際に見たことはある?」
「残念ながらない。領地に迷宮がある貴族に聞いたにすぎないのだ。だが魔剣などは大概使い手を選ぶものなので、装備に条件があるのは前例がなくもない」
そしてアーヤは、いつか魔剣を持ってみたいものだと呟いた。
恋する乙女みたいにうっとりする表情は破壊力抜群で、反射的に求愛してしまいそうになるが、勘違いをしてはいけない。
彼女は魔剣を振り回し、敵をなぎ倒す自分自身を想像してるのだ。
「しかし、付与のやり直しに、最高レベルの鑑定か。そうすると、ロイドは私の能力値もわかるということになるな」
「多分……人様を勝手に調べるのは失礼なので試してないけど」
「ならばやってみてくれ。こっそりとな」
「わかった」
鑑定中、自分の外見……特に目がどう変化してるのかを確認してもらうこともできる。
自分より背の高いアーヤを見て、僕は頭の中で鑑定と告げる。
『名前:アルメイヤ・サナトリウス
レベル:8
グラント王国におけるサナトリウス伯爵家の長女。幼少時より武に憧れ、その才を発揮したはいいが、嫡男よりも強いために疎まれる。整った容姿であるがゆえに政略結婚の駒に使われようとしたが、自分より弱い男は気に入らないと実力で破談にした。結果、伯爵家を放逐された。しかしながら男に興味がないわけではなく、好みは成人していながらも幼い顔立ちの背の低い男性。ちなみに巨乳。
生命力:85
魔力 :0
腕力:22
体力:17
敏捷:16
幸運:6』
お胸の情報は必要だったのかな!?
……ちょっとありがたいけど。
いや、その前に好みのタイプってこれ……。
家を出た理由は聞いてたからいいにしても、指摘するところが多すぎる!
「どうした、ロイド。かなり慌てているみたいだが……」
「その、アーヤって伯爵家の出だったんだね」
「な!? そうか、名前か。まさかサナトリウスの名が、西の果てであるリュードンにまで届いているとは思わなかったぞ」
ひとりで納得しているが、生憎と彼女の家名に聞き覚えはない。
「そうじゃなくて、僕の鑑定だとその人の情報というか説明もでてくるんだ」
「従来の鑑定では、名前と能力値しかわからないはずだぞ?」
「これが最高レベルってことなのかな……」
「かもしれん。では、ロイドが得た情報をすべて教えてくれ」
「え? 全部?」
「許可は与えたとはいえ、私の情報だ。なにを知られたかは知っておきたい」
相手の立場ならそうなるんだろうけど、なんとも言い辛い。
しかし、黙っていると話せないのかと詰められそうなので、仕方なしにまるっと白状する。
「名前はいいとして、その、僕みたいな幼い外見で成人済みの男の人が好みだとか、その、お胸が大きいとか」
「なんだそれは!? いや、違うぞ、ロイド! 私は決してやましい気持ちで近付いたわけではない!」
目を見開き、両手を前にだして弁解しまくり、頭を抱えてうずくまる。
アーヤの顔は真っ赤だった。きっと僕もだろう。
「最高レベルの鑑定とはなんと恐ろしいのだ……そうだ! そのネックレスを借りれば、私もロイドの情報を見られるのか!?」
顔を上げ、自分のも知られたのだからと、アーヤが手を伸ばしてくる。
手を振り払うほど見られて困る情報もないので、ネックレスを手渡す。
「でも、装備を外すとレベルって元に戻るのかな」
僕の何気ないひと言に、アーヤの動きが止まった。
「確かに……ロイド、私のレベルはいくつだった?」
「8だったよ」
「家を出た時よりひとつ上がっているな。魔狼を倒したおかげだろう」
魔狼の平均レベルは大体で3程度らしい。群れが脅威なのであって、単独であれば少し腕に覚えがある一般人でも討伐が可能なのだそうだ。
「ではレベルがどうなるのかも含めて、一度確かめておくべきだろう。幸いにして装備は外せるみたいだしな」
「そういえばそうだね。呪われたものなら外せないはずなのに……」
聖職者が修行を積んで行使できるようになる聖魔法でなければ、呪いを消し去ることはできない。
「その点でも、このネックレスは呪いの品とは一線を画しているように思う」
言いながら、アーヤは首にネックレスをかけた。
「これで鑑定と念じるだけでいいのか? 私の情報を正確に知られていなければ、とても信じられなかったぞ」
「あの情報って、やっぱり正確だったんだ……」
ポツリと漏らしてしまったおかげで、アーヤがまたしても大慌てだ。
「ううッ、その話はあと回しだ。鑑定をするぞ」
アーヤが僕を見つめる。彼女の目の色は、レイーシャみたいに変わったりしなかった。
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