第9話
ココカトリスの焼き鳥
ココカトリスの肉でできた焼き鳥
塩味
「うま……」
美味しくて結局五本は食べてしまった。
隣を見るとルナが食べ終わった串を二本ずつそれぞれ両手の指の間に挟めて「どう?カッコ良くない?メリケンサック風」とか言ってふざけている。
「ほ、ほんとに食べたんで、ですね?」
「うん、美味しかったね」
両手の指の間は八つ、そこに二本ずつの串、つまり計十六本の焼き鳥を食べたことになる。
しかもこの焼き鳥は一本一本の肉の量がかなり多かった。
この身体のどこに肉が入っていったのだろうか。
やっぱり胸か。
「ご主人は?お腹いっぱいになった?」
「は、はい」
胸の小さい私は確かに少食なのも私の提唱する『おっぱい胃袋説』の重要な証拠である。
現実でも少食な私はおっぱいがおっぱいと呼べないくらい小さい。
おっぱいが小さい人間は胃袋に入る分しか食べれない。逆におっぱいがでかければその分おっぱい袋に食べ物が入っていくのだ。
つまるところ胸の小さい私は胸が小さいがゆえに胸のデカイ人間に憧れることがあってもおっぱいのある人のことを理解できないのだろう。
「腹ごしらえも済んだし、どうする?またモンスター倒しに行く?」
「う、いや、狩りはいい、かな……」
「そう?」
……私はおっぱい胃袋説とは別に、焼き鳥を食べながら考えていたことを口にした。
「お店、を見てみたい、です」
「おぉ」
焼き鳥を食べてて思ったのだが、この美味しい焼き鳥一本が3Gなのは流石に納得いかなかった。
ある程度色んなものの値段を知って物価を把握しておくのが必要だと考えたのである。
それに、私のことを女子だと思わぬ人もいるかも知れないが生物学的には一応女子であるからショッピングは好きな方なのだ。
なにも実質的なゲーム初日を丸ごとモンスター討伐で使うこともないだろう。
「じゃあ、デートだね」
「うぇっ!?」
ルナの口から放たれた言葉に驚愕した。
デデデデート?
ななな何を言っているだ?
デートとは恋慕う相手に日時を決めて会うこと(辞書より)であって、断じて出会って一日もしない相手とすることになるものではない。
したがってこれから仲睦まじく二人で街を観光したとしてもそれはデートではない。
ゆえに私が動揺する必要は全くないのだ。
全く持ち前の陽キャで無意味にからかいおって。
そんなハッタリにこの私が動揺するとでも?
「さしゅっ、しょ、そうで、ですね!いっ、行きましょか!?」
「北西にある紡績と裁縫の街スペアと北東に位置する鍛冶の街アイノロール、そして南東に位置する貿易都市コメルス。
これら北二つの街と南の街をつなげる街道の中間地点に位置するのがこの街ロードコメルスだよ。
まぁ、コメルスに続く道にあるからとはいえ、そのまんま過ぎる名前だよね。
昔はスペアとアイノロールからもっとたくさんの人が馬車で荷物を載せてコメルスに商売をしに行ってたんだけど、今は交易交通協会の転移装置が主要都市にはあるからね。
昔ほどにはこの街も賑わっていないみたいだよ?
……それでも転移装置を使うより安上がりになる時は今でも馬車で移動するでしょ?
だから今でも宿泊者用の飯屋は結構あるし厩舎も幾つか残ってるしね。
あと、結構雑貨屋とか服屋とか武器屋とかあるでしょ?
これは北二つの街からコルメスに売りにいった品物で売れなかったり余ったりしたものを、コルメスからの帰り道の商人から安く仕入れてるらしいね。
商人の人としても売れ残りを自分のところでずっと持ってるよりは安くでも売った方が良いだろうし。
そういうところもこの街が寂れてない理由だったりするのかな?
あっ、この果物おいしいよ!」
「あっ、すっ……」
ルナが観光の最中この街の話をしてくれていたが緊張で殆ど頭に入ってこなかった。
それにルナが気を遣って話してくれているのに私は変な相槌しかしてないとか考えると凄い胸が痛くなる。
うぇ、なんか吐きたくなってきた。
「スポポの実、1個6Gだよ」
「はひ……」
「どした、嬢ちゃん?そんな死にそうな声して」
「だ、だびじょうぶれす」
「お、おう、そうか……?はい、スポポの実な。そっちの嬢ちゃんも」
「わー、ありがとうございます」
「あ、あざます」
私の失せる食欲とは反対にルナは美味しそうにスポポの実を食べている。
……かわいい。
「甘酸っぱい……」
このスポポの実しかり焼き鳥しかり、これまで見てきた食べ物類は美味しさに関わらず1から10Gのものがほとんどだった。
また、飲食店等で提供される調理済みの食べ物や飲み物になると10から20Gはするようになるみたいだ。
あと、ルナは飲食店に引き寄せられる性質があることも分かった。
ルナに店を選ばせたら八割は食べ物のある店に行くんだもん。
雑貨屋だろうが花屋だろうが郵便だろうが食べ物が置いてあるんだからびっくりしたわ。
「ね、そうでしょ?スポポの実は少し酸っぱいのが入ってるところが良いんだよね。ジャムにしたりすると結構良い感じになるんだよ」
「あっ、ひゅっ、そ、そう、で、です、ね」
「おい、嬢ちゃん、ホントに大丈夫か?」
安心してください、八百屋のおじさん。
人は普通、女の子と買い物(デートではない)をしても死んだりはしないんですよ。
「ハハッ、大丈夫ですよ。ご主人は私とデートで緊張してるだけですから」
「だっ、デッ、ち、ちが、」
「ん?」
「は、はぃ、デートです……」
でもね、おじさん。
人は女の子とデートしたら死ぬことがあるんですよ。
「ま、まぁ……とやかく言うつもりはないが、あんまりご主人?を苛めないようにな?」
「……?」
「あぁ、そう……じゃあ、仲良くな?」
「はい、もちろん。じゃ、次のとこ行こっか?」
「は、ぃ……ぃぃっ!?」
自然とつながれた手に既に爆発していた心臓がもう一段階跳ねるように鼓動する。
本当に不思議だ。
手を繋ぐくらい普通ならそこまで意識することもないのに、デートだと思うだけでいやデートじゃないけども、とんでもないくらいドキドキする。
性命の神秘か?
「うーん、あっ、ここにしよ!」
「……洋服屋さん?」
ルナの手に引かれ、次にやって来たのは『服屋ホホル』という看板のかかったお店だった。
ルナがドアを開け、続いて私も店の中に入る。
中にはスーツを着た白髪交じりの男性とレジにあたる場所で座っているおばぁちゃんの二人が居る。
そのうちの男性の方が私たちに声をかけてきた。
「いらっしゃいませ。ようこそお越しくださいました。本日のご用件をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あ……」
「どんな洋服あるのかな、って気軽に入っちゃったんですけど良かったですか?」
意気揚々と店に入ったルナの勢いは少し失われ戸惑っている様子がわかる。
それもそのはず、言っちゃ悪いがぼろ目の外見の店に入ったら中身に高級ブランドのアパレルにいそうな店員が居たのだ。
そりゃ、陽キャでもビビることだろう。
もし私一人だったら恐怖で即座に店を出てしまっていたと思えるくらいの上品さを醸し出している。
事実ルナにドキドキさせられていた心臓は一気にヒュッ、ってなって一瞬止まった。
「ええ、勿論構いません。ごゆっくりどうぞ」
「あり……ざいます」
「ありがとうございます。じゃ、ちょっと見てみよ?」
店員さんの了承から入り口の扉の前で固まっていた私たちはようやく動き出して店内の洋服を見始めた。
店の中で商品は二つのグループに分けられて売られている。
一つは片方の壁際に置かれたハンガーラックと店の真ん中にある台に配置された服達だ。
ハンガーラックにかかっている方は一つ一つ異なるデザインをしている物が数十並べられており、一方真ん中の台に平積みされている方では幾つかのデザインの服がそれぞれ五、六個ほど置かれている。
こちらの方は平積みの量産型の服で500~700Gほどで、ハンガーにかかっている服の方は少し高くなって800~1000Gほどの値段だ。
ここまでを見れば、確かに店の外見に見合った庶民派の品揃えである。
しかし、異彩を放つのはもう一方のグループの商品たちだ。
ハンガーラックが置かれた壁とは反対の壁際に置かれた、脛の真ん中と膝くらいの高さで二段になっている台。
その上には一瞬人間と見間違えるほどの精巧さをもったマネキン人形が交互になるよう二段に分けて五体ずつ並べられており、それぞれの人形の顔や雰囲気、プロポーションに合ったどちゃくそに可愛い服が着せられている。
正直、現代の店に並んでいても遜色ないデザインの良さだ。
一方で値段は全然、全く可愛くなく、一つのセットで6~13万G。
今日のモンスター狩り二千回分のお金でようやく買える値段である。
全然可愛くない。
それを知ってか一回こっちの飾られた服の方に引き寄せられるも値段を見た後ルナはきびすをかえして庶民服の方で服を漁っている。
私も本来は逃げるように庶民服の方を見に行きたくなっているのだが、その意思とは裏腹にあるマネキンに飾られた服の前に引き付けられていた。
どちらかと言うと幼女風の姿形をしたそのマネキンが着ている服は人類三大萌えの一つ、メイド服であった。
その萌え萌えな見た目に引き付けられるオタクの私はあることに気付いていた。
『ルナ、メイドなのにメイド服じゃないじゃん』と。
プレイヤーの方が強くなれてしまうNPC育成ゲームで真っ当に(?)キャラの育成を楽しみます! 森野熊次郎 @KUMAGIRO23
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