第7話
ざしゅっ
「ゴブッ!?」
『ゴブリンを倒しました』
『ゴブリンの角』
ゴブリンの角。
角の太さで異性にアピールする習性がある。
もはやアイテムの説明じゃなくてゴブリンの説明だし、少し下ネタ入ってる気がしたりするのは無視した方が良いのか。
「ふぅ、結構やったね」
「で、すね」
森を一匹でうろついていたゴブリンに背後から近づきダガーで喉を一裂きしたルナがほっと一息吐く。
確かにかなりの数のモンスターを倒してきている。
正確な数は忘れたけど、ゴブリンが数体に、スライムが数体、フォレストウルフとか言う狼が三匹セット、あと巨大化ネズミのビッグラットが一匹だったはず。
ほとんどの場合ルナが『暗殺者』の持つスキルで群れになっていない、一匹でいるモンスターを探ってそのまま気付かれないように背後から近づき急所を刺す、というパターンで戦闘は終わった。
そうならなかったのはフォレストウルフ三匹の群れに襲われた一回だけ。
臭いで嗅ぎ付けたのか、休憩がてらキノコとか草とかを鑑定しながら採集していた私たちに遠くから急速に近づいてくる狼たち。
それをいち早く察知したルナは敵襲を私に教えるとすぐに姿を隠す。
急に見放されたかとあわてふためき逃げようともしていない私と、臭いは分かるが姿の見えないルナ。
どちらが狙われるかは一目瞭然で、木々の向こうから姿を現した狼たちは私目掛けて一直線に駆けてくる。
脇目をふらずに狼たちの隙を突き、ルナが狼を一匹即座に仕留める。
残りの狼のうち一匹は姿を現し仲間を奇襲したもう一人の獲物に警戒を示し、ルナと相対する。
別の一匹は奇襲してきた人間など気にも掛けず怯えた獲物に狙いを定め、喰らわんと駆け続ける。
そうしてルナは戦闘を、私はダッシュで逃げた。
木を使ってジグザグに逃げたりインベントリから出したアイテムを投げつけてみたりと色々して必死に逃げたがただの悪あがきに過ぎず、すぐに追いつかれ攻撃される。
足を噛みつかれ、走っていた勢いでそのまま倒れてしまう。
絶対絶命の大ピンチ!
そこへ颯爽と駆けつけるルナ!
助けられる私!
そんな感じだった、多分。
かなり怖かったが、ルナのカッコいいところを直に見れたのはすごい良かった。
狼に噛みつかれてもがいていた都合、ルナが助けに来たとき顔が見えたのだが、もう凄かった。
無表情で無感情でなんの躊躇いも伴わない、暗殺者の冷酷な瞳。
それが私に向けられているように感じられて、おしっこ出そうになるくらいゾクゾクして興奮した。
新たな性癖をこじ開けられそうになった、そんなエピソード。
いや、違う違う、そんな戦闘エピソードであった。
ちなみにそれ以外にも私が触手プレイされた出来事があった。
一番最初のスライムとの戦闘のあと、ルナに促されて結局私もスライムを倒そうと挑戦することになり挑んでみたけれど口を拘束されて息が出来なくなって死にかけ、ルナになんとか助けてもらった。
女の子がスライム触手に口から侵入されるのはよく見るけれどもまさか自分が体験する立場になるとは思わなかった。
触手していいのは触手される覚悟のある奴だけだ、ということらしい。私には覚悟がなかったから気持ちよくなかったのかもしれない。
そんな知的な経験をしつつも、とにかくかなりの数のモンスターを倒してきておよそ二、三時間。
ゲーム内時間で正午が近くなっていた。
「えと、町、もどって、ご、ごはんとか、どっ、どうですか」
「良いね、確かにお腹減っちゃった」
「あっ、あ、あと、取った素材、う、売りたい、です」
「うーん、じゃあ先にそっち行こっか」
「は、はい」
……お気付きだろうか?
実は私はこの三時間で進化した。
そう、私の方からしゃべれるようになったのだ!
三時間近く一緒にいれば陰キャの私といえどもキラッキラした人とも話せるようになるのだ。
ただし、どもるのは仕方ないから指摘しないで欲しい。
そこまで直すのは一年はかかる。
「ご主人、どうしたの?行かないの?」
「あっ、す、行きます……!」
ルナについていくこと五分ほど。
ほぼ一直線に進んで町に着いた。
着いたのが町の南側なので三時間ほどの探索で森をぐるっと半周していたみたいだ。
そんなことに気付けないほど森は至るところ同じ景色で場所が分からなくなるというのに、迷いなく帰ってこれたルナはどうなっているのか。
方向感覚が凄いのか、はたまたスキルを使ったのか。
どちらであれ改めてルナの頼れる女感を実感するところである。
そして、またルナに頼ってしまうなと思いながらも帰り道に浮かんだ疑問を口にする。
「えっと、ど、どこで素材ってう、売れるんです、か?」
アイテムはどの店で売れるの問題。
カジュアルなRPGとかだと服屋だろうが雑貨屋だろうが八百屋だろうが、どんな店にもどんなゴミでも売ることができる。
ただ最近の作り込んでるタイプのゲーム、特にVRゲームだと顕著で、ゴミはゴミだからどんな店でも売ることは出来ないし、ゴミでなくともアイテムの種類に応じて売れる店が異なっている、このような仕様がよく見られる。
多分、このゲームは後者のパターンだろう。
しかし後者のパターンでも大抵の場合あらゆる種類のアイテムを買い取ってくれる店が少なくとも町に一つはあるものである。
「モンスターの素材は組合が一括で買い取ってくれるよ」
「へ、ぇ……」
冒険者組合的なやつかな。
よくあるパターンだ。
町のど真ん中にある建物。
地域の人から依頼を取りまとめ、中間業者としてさりげなく搾り取った金で作ったデカイ建物だ。
そして無駄に広い建物の中には酒場が併設されててイカついおじさん達がたむろしてる。
そういう創作物云々で散見される黄金パターンの冒険者組合。
「というか、そこだよ。組合」
「へ?」
ルナが指差す先を振り向く。
そこは町の端も端。
交番か、と思うほどコンパクトな建物。
「いらっしゃいませ」
「モンスターの素材を売りに来ました」
「かしこまりました」
中には小さなカウンターと来客者用の椅子が二つ、向こう側に受付のお姉さんが一人座っており、更に向こうに物置のような小部屋が扉の隙間から見える。
酒場なんかあるはずもなく、唯一イメージと同じなのは壁に付いている依頼書が貼り付けられたボードだけである。
「組合員証はお持ちでしょうか」
「あー、持ってないです、作れますか?」
「手数料としてお一人様1000Gかかりますが宜しいでしょうか」
「大丈夫だよね?」
「うぇっ、?っと、だ、大丈夫……」
「大丈夫です」
「かしこまりました、少々お待ちください」
困惑する私を置いてなんかどんどん話が進んでいる。
手続きの書類でも取ってくるのかお姉さんが物置部屋に入っていった。
その隙にルナに質問する。
「な、なんか、おっ、思ってたより、小さい……?」
「あぁ、ね。こっちは小さいよね」
「こっち?」
「もう一個大きい組合があって、昨日泊まった宿屋の一階に併設されてた奴だけど、見なかった?」
「……あ」
「まぁ、母体は同じだけどね」
確かにそんなのがあった気がする。
結構人が群がってて……というか、思い出したけど確かに配信者は宿屋でアイテム売ったり依頼受けたりしてた。
そっか、あれがそうなのか。
それはそれで、こんな小っこくてボロい方は要らなくないか、という疑問が出てくるのだけれども。
「お待たせいたしました」
「……?」
しばらくもしないうちに変な機械?を抱えてお姉さんが戻ってきた。
どこかで見たことのある大きな角が側面から生えている箱型の機械。
どことなく顔に見えるような模様も書かれており、口に当たる部分は細長い穴が空いている。
「こちらに手をかざしていただくと組合員証が作成されます。どうぞ」
「………え…えっと」
「えい」
お姉さんに機械を差し出される。
しかしどこに手をかざすか分からずあたふたしていると、ルナが私の手首をつかんで動かし紅色で塗られた機械の頭頂部へと手をかざさせた。
『フハハハっ!受け取るのだ!!』
どこか聞き覚えのある社長の声と共に機械の口から一枚のカードが吐き出される。
現実の世界で保険証とか学生証とかでよく使われるような大きさのプラスチックのカード。
ファンタジーでプラスチックはどうかと思うが、それよりも書いてある内容に目が行った。
『
組合員証名証 No.865953
名前:『
種族:淫魔
職業:薬師
』
「……どういうこと」
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