第6話


「ドロップあるね」

「で、すね……」


 スライムが粒子となって消えた後の地面に何らかの、おそらくスライムの核のかけらのような物が落ちている。


 『色んな子を育成するのだ!!』でも他のRPGよろしくモンスターを倒すとドロップ品が手に入る。


 ドロップ品は大抵の場合、倒したモンスターに関連する素材である。

 

 ただし特殊なモンスターを倒した場合、武器などのアイテムも手に入ることがある。スライムには関係ないが。

 

「…………」


 落ちている核のかけらを手に取る。


 指で摘まめるくらいのサイズで、肉っぽいグチュグチュとした触感をしている。ちょっとキモい。


 このゲームでは勝手にアイテムの詳細が表示されたり、勝手にインベントリに収納されたりはしない。


 アイテムの詳細が知りたいなら自分で鑑定しなきゃならないし、インベントリには自分で収納しなければならないらしい。


 慣れれば何とも思わなくなる、とは配信者は言っていたけれども。


「えっと、インベントリは……」

「……?」


 今日ログインした時にロリ社長から貰った鑑定のモノクルがあるはず。


 UIからインベントリ、更に取り出しを選択して……


 よし、出てきた。


「てってれてってれー、カンテイのモノクル~~」

「なに…」

「すみません、何でもないです、ごめんなさい」


 うぅ。


 どうしてもやりたくなってしまったんだ。


 四次元空間からアイテム取り出す時はオタクなら絶対言いたくなるものなんです。


 だからそんな不審そうな目で見ないで。


「鑑定鑑定鑑定……」


 恥ずかしさのあまりぶつぶつ言って誤魔化しながらルナから顔を背けた。


 視線を感じながらも鑑定のモノクルを目にかけ、ドロップ品を観察する。



『スライムの中枢核(欠片)』

 スライムの中枢核の欠片。

 スライムの脳にあたる部分でグニグニ触っているとたまに身体に電気が走る。



「えっ、きもっ」


 鑑定による説明文を読んだ私の素朴な感想が自然と口から出てしまっていた。


 核の一部で脳ミソと同じ部分だというのはなんとなく察していた。


 けれども電気が走るって何?


 スライムってそんな電気属性な生物だっけ?


 もしかして、これ細胞的には生きてたりするの?


 カタストロフィな情報に恐くなってきて、さっきまで普通にぶにぶに触ってたけどもう手にも持ってたくなくなったんだが。


「とりあえずインベントリに入れよ……」

「終わった?」

「んぎゃぎょっ!?」


 だっっ、びっくりした。


 完全にルナのことを意識の外に追いやってたわ。


 考え込んだら他のことを見れなくなるのは私の悪い癖……いや、ルナ近い近い近い近い。


 スライムの素材を拾うのにしゃがんだ私の隣に寄ってきてしゃがんだルナ。


 嬉しいけれども、その、肩が時折触れ合う距離で並んで膝抱えてしゃがんでるのはもはや恋人の距離感やんか。


 童貞の私には刺激が強すぎゅ。


「あぅ、えっと、はい、ちゃんと拾えました」

「なら良かった」


 不自然にならないようにルナから距離を取りつつ先ほどの質問に答える。


 質問に答えると、何を考えているのか、ルナはスライムがいた辺りの地面をダガーでいじり始めた。


 無邪気で可愛い。


「…………」

「…………」


 ルナは地面をいじり、私はルナを覗き見る。


 静寂が二人の間を包む。


 あんまりに無言の間が続くので遂に気まずくなって、この私が、この変態の私が自分からルナのご尊顔を覗くのを止めた。


 それほどに気まずい空気が流れる。


 実際には私が勝手に感じているだけなのだろうが、それが分かっていても陰キャにとって1on1の対戦でこの無言はキツすぎる。


 私から話しかけた方が良いのか?

 

 いや、でも、それで「は?」とか言われたら死ぬ。


 ただでさえ、さっきネコ型ロボットの真似をして失敗した記憶が脳裏にこびりついているのだ。


 やっぱり恐いし自分から話しかけるのは、いやでも、うぁ、うぅーーーー


「あ、の」

「ん?」


 意を決してルナに話しかける。


「そ、その、つ、っぎ……」

「うん、ゆっくりでいいよ」


 吸い込まれそうなほどに穏やかなルナの瞳を見て、時が止まったかのように緊張を忘れる。


 そして一呼吸して、言った。


「一狩り行こうぜ、しませんか!?」


 選んだ語彙を間違った気が……


 けれど、そんなことはどうでもいいと思えるほどに私の心臓は戻ってきた不安と緊張でバクバクしている。


 耳を閉じて逃げ出したい気持ちを抑えて返答を待った。


「もちろん良いよ」

「やっ……!」


 やったー!


 会話成功!


 よくやった私!!


なの?」

「やっ、違っ」


 断じてそういう意味で発した音ではないです!


「ははっ、冗談冗談」

「な、う、はい……」


 私をからかいながらころころと笑うルナを見て思ってしまった。


 あれ?


 これ、もしかしなくても私、ルナの手のひらでコロコロされまくってただけなのでは?


 会話成功、やった!とか思ってたけど全部ルナの温情によるもので私の寄与するところってあったのかな……


 えっ、恥ず。


 あっ、ダメだ。これ以上考えたら。


 これ、夜に考えて死にたくなるやつだ。


「よいしょっ、と。はい、引っ張ったげる」

「あっ、ありがとうござます……」


 立ち上がったルナから差し出された手を掴み立ち上がる。


 すごいスベスベしてて細くて柔らかい感じがするひゃっほーーーう!!


 あぁ、憂鬱になんかなってらんねぇぜ!


 うはははははっ!


「よし、じゃあ森の中行ってみよう?」

「はい……!行けます……!」


 現実逃避を含めた、このハイテンションな私に恐れるものなんてないのだ!


「ご主人めっちゃやる気じゃん」

「い、今なら、なんでもいけます……!」

「ほんと?それじゃあご主人もモンスターってみようよ」

「いっ、いけます!」

「スライムだけじゃなくてゴブリンとかもいるかもよ?」

「あっ、うぅ、いや、いけます!」

「ふふっ」

「な、なんで、すか?」

「ううん、何でもないよ、行こっか」 

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